2020年の新型コロナウイルスの世界的な蔓延の中で，テニス，ハンドボール，バスケットボール，水泳，ゴルフ，などの世界大会が無観客ながら開催されている。スポーツのパフォーマンスは清々しく，活力を与えてくれる。検査，隔離，バブル（ホワイト・ロックダウン）などの制限を受けながらも開催され，世界に中継された。
いずれも，関係者の中で感染確認者が出るなどはあったが，選手への感染もなく，大会はいずれも無事に行われている。選手に対する対応，観客に対する対応など，大型のスポーツイベントにおいてどのようにすれば感染拡大を防げるかのノウハウの蓄積になっているという。
2021年7月開催予定の東京オリンピック2020にも，これらの経験が生かされ，無事開催する，というのが大方のシナリオだが，正直言えばオリンピックにはスケールアップできないと筆者は考える。
まず，オリンピックは複数の競技の集まりではない。最後は，国ごとのメダル数で競われる国家間の戦いであることだ。選手個人にとっては，タイムだったり記録だったりするが，結果はメダルの数の統合される。
次に開催期間が長く，参加選手数，関係者数が個々の世界大会とは比べ物にならないほど多いことだ。世界大会はトーナメント方式でもせいぜい5段階。参加選手は32人である。しかし，オリンピックでは全世界の国を代表して参加する。1競技に100人は集まる。そして東京オリンピック2020の競技数は46もある。7/21に始まり8/8までの19日間も続く。テニスの全豪オープンは，1/10から2/21まで43日間も続くが，ゴルフは4日で勝負が決まる。開催期間中，会場も東京，神奈川，埼玉，千葉，など各地に広がっている。お台場のオリンピック宿泊施設は何とか管理できても，他の宿泊施設，移動手段，そして会場で，選手および観客の行動をコントロールできるとはとても思えない。
さらに，オリンピックはそれに先立って聖火リレーが国内で行われる。国を挙げてオリンピックを招致し，世界各国のスポーツピープルを迎えるためのイベントである。2021年7月21日の開催に先立って，3月25日に福島県からスタートして，全国を4カ月にわたって巡る。あと19日でスタートである。首都圏1都3県の緊急事態宣言が明日3/7からさらに2週間延長されて3/21が解除予定である。解除まで3週間，あるいは1カ月となると，聖火リレーのスタート日にまだ解除されていないことになる。2週間という選択は，まさに「緊急事態宣言を解除し，オリンピックを開催する」という強いメッセージを世界に発信したいからだろう。
正直，このために政府は，1都3県と結託しないとも限らない。たとえばPCR検査件数むを減らすことで感染確認者数を減らし，無理やりステージ2の数字を捏造することは可能である。あるいは，緊急事態宣言の再度の延長は難しいため，いったん宣言を解除し，聖火リレーをスタートさせ，その後，緊急事態宣言は出さずに同様の締め付けで減らす努力をするのだろう。しかし，高齢者へのワクチン接種もさらにその翌月の4月末ごろ，一般の日本人への接種は7月に入ってから，ということになると，変異ウイルスへの切り替わりも進んでいるため，再度のリバウンドは避けられないのではないかと予想する。
オリンピックのプレイベントである聖火リレーをする意義がそもそもあるのだろうか。国内にオリンピックを周知するためのイベントだろうが，そもそも全国を回っても経済効果はなく，逆に地方自治体の警備などへの出費が各県数千万円にも及ぶことを考えると，直接関係のある開催県だけで開催直前に行うか，あるいは全国をクルマで駆け巡るだけでいいのではないだろうか。東京オリンピック2020は，無観客開催の可能性もある。新しいイベントとして開催するのなら，「聖火クルマリレー」でもいいのではないか。無理やり3月にスタートさせず，6月スタートにして，それまでの3カ月の間に新型コロナウイルスの完全終息を宣言することで，世界にアピールした方が日本のためだと思う。
とにかく，あらゆることの思いっきりが悪い。筆者は，今回の東京オリンピックは，シンボルマークの盗作問題が発覚した段階で「辞退すべき」と主張してきた。新型コロナウイルスの世界的蔓延，森喜朗元オリンピック組織委員会会長の問題発言など，天災，人災が続きすぎている。
今，逆に世界で最も安全にオリンピックが開催できる国があるかと言えば，それは中国だろう。2022年の冬季オリンピックに向けても同国は徹底的な新型コロナウイルスの抑え込みを進めている。ロックダウン，PCR検査，病棟の増床なども進めている。別にもう中国と張り合うこともないのではないか。どうしてもオリンピックを2021年に開きたいのなら，中国に開催してもらっていいのではないか。今現在，日本で開催しても経済効果は限定的である。むしろ，警備や検査，特別な交通規制，そして期間中に起こりうるリバウンドによるさらなる経済の落ち込みなど，何もいいことはないのである。
改めていう。東京オリンピック2020は，開催中止，そして他国へ譲渡すべきである。
