東京オリンピック2020におけるCOVID-19感染防止の中心であるバブル方式を担う選手村が,問題になっている。居住のクオリティはともかくとして,感染対策となるべき他国選手との接近・接触を避ける環境が作られていないようなのである。
もともと,COVID-19問題がなければ,レストランでは各国選手が自由にメニューをプレートに選んで取り,フリー席で歓談しながら食事ができることになっていただろうし,同じ建物で一つの入り口,一つ(ないし複数)のエレベーターの利用,ラウンジでの交流などができることが前提で設計されているはずである。
しかし,COVID-19対策としては,少なくとも国の異なる選手の動線は別になるように設計する必要がある。レストランでも同様だと思われる。
また,本来は選手同士の競技を越えた交流の場になるべき場所なのだが,国同士の接触を避けようと,選手村に入らない国が出てきた。選手数の多いアメリカ,そして日本も卓球、柔道、レスリングなどの選手が選手村に入らないという。
個々に毎日のPCR検査を受けて陰性証明ができたとしても,結果が出る以前にすでに感染している場合もあり,陰性だからといってまったく自由に行動できるわけではない。それだけに,競技から戻ったらゆっくり食事を取り,リラックスしたいだろうし,他国の選手とも交流したいだろう。しかし,人が集中しているだけに,そこで感染拡大のリスクがないわけではない。
すでに100人を超える選手・関係者の陽性者が出ており,競技会場はもちろんのこと,選手村に戻っても疑心暗鬼でホッとすることができなければ,バブル方式を実現した選手村の意味がない。
日本選手の一部が選手村を使わないことにしたことも,各国にとっては不愉快な感じではないか。そう思った瞬間,部屋の狭さ,シャワーの低さ,ベッドのお粗末さ,食事の貧相さなどの不満が一気に噴出してくる。
IOCバッハ会長やオリンピック貴族に対する厚遇を見ると,筆者としては各国の代表選手こそVIPであり,厚遇の対象だと思うのである。「SDGsに配慮して再生可能なダンボール素材でベッドを作って提供した」という組織委員会のコメントが,いかにもケチ臭く聞こえる。
おカネのある大きな国は,自費でホテルを借りてそこを拠点にできるかもしれないが,多くの小国は選手村に入らざるを得ない。その国の威信を掛けてオリンピックに参加した選ばれた選手が,ビジネスホテル並みの待遇では,あまりにも悲しすぎる。せっかくの「お・も・て・な・し」文化が,世界に嘲笑されるものになってしまう。
この際,観客需要のなくなった各ホテルが名乗りを上げて,国単位で選手団の宿泊設備誘致を提案してはどうだろう。手間はかかり,売上も通常客より下げなければ来てはくれないだろうが,徹底的なサービス,安全なおもてなしをしてはどうだろうか。もともと海外からのお客様にあわせた部屋やベッド,シャワーなどで設計してあるはずだからである。会場への行き来は選手側が負担するような形になるだろうが,ハイヤーの利用でもいいだろうし,大人数であれば選手村で余ったバスを転用できるように交渉してもいいだろう。正直,すでに1年以上にわたって感染防止対策には習熟している。選手村でボランティアがモタモタ対応するのとは比べ物にならないほどいいサービスが提供できるはずである。