jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

「理工学」を解体する--いま日本に必要なのは何か。独自技術の水素燃焼エネルギーの実用化と考える

 かつては,理系と文系と大きく2つに分けられていた学問分野だが,近年は「学際的」とか「文理融合型」「分野横断型」などと言われるように両方の系統にまたがる学問領域が増えてきた。
 筆者は工学系なのだが,「理工系」と呼ばれることもある。しかし,理学部と工学部では明らかに求めるものが違うと思える。
 学際領域で最も変化が大きかったのがバイオテクノロジー分野だろう。元々は,理学部生物学科と農学部,そして医学部が,それぞれの対象生物(一般生物,農業・林業・畜産,ヒト)の研究をしていたが,遺伝子学の急速な発展により,共通のツール,共通の手法で研究が進んだ。
 特に農学部は,従来は「作物の収穫量増加や病気耐性の向上などのための交配研究」をしてきたのが,遺伝子操作,遺伝子組換え,そして最新のゲノム編集などの技術を駆使している。人口増加や地球温暖化に伴う食糧危機に対する答えが期待されるのも,農学系のバイオ技術である。
 一方,基礎医学の分野もバイオテクノロジーがカギを握る場面が増えている。難病治療,その治療薬の開発,新型コロナウイルスのワクチンでメジャーとなっているmRNAワクチンも,バイオテクノロジーの成果である。
 一般に「理学」は純粋に研究であり「サイエンス」と呼ばれる。世の中の現象を観察し,実験し,仮説を立ててそれを実証し,結論を出す。人類が持つ謎を解くという思考の欲求を満たす。結論が出ることが最終的な成果である。それが現実の問題を解決するかどうかについては一切関知しない。名誉は生むが価値は生まない。知的には豊かになるが,経済的には影響はほぼ皆無である。
 一方「工学」は,モノを作り,それが人々の生活に役立ったり,価値を生んだりする。国単位では経済の基準となるGNP(国民総生産)を生み出す。
 戦後の日本の成長を生み出したのは「工学」である。もちろん,そのモノづくりの原点には多くの基礎研究が行われた。メーカーの多くが「基礎研究所」「中央研究所」を持ち,目の前の製品開発用ではなく,10年後,20年後を見据えた基礎研究を行っていた。
 この「基礎研究から応用開発,製品化」という一連の体制が,日本を「世界の工場」「Japan as No.1」と言わせる工業大国にのし上げた。しかし,世界経済の停滞により,長期にわたって成果や価値を生まない基礎研究部門は廃止され,目の前の応用研究のみになって,人件費の安い東アジア,東南アジアに生産拠点が移ったことで,応用開発すら行われなくなった。「理工学」という言葉が意味を持たなくなっている。
 「科学立国を目指す」と旗揚げはしたものの,サイエンスでは国は食べていけない。優秀な頭脳だがお金の価値を生まない研究者は日本では研究を続けられず,海外に頭脳流出する。若者の科学人材を育てる目的があった文部科学省SSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)も,いまや多くは形式的なものになり,大学との連携で高校生が調査を担当するだけだったりする。一方で,大学の研究室は,科研費の申請と企業との共同研究に追われ,長期間にわたる体系的な研究ができない状況にある。SSH予算を大学の研究室につぎ込むだけで,研究環境は一気に楽になるといわれている。現在の日本は,価値を生むための頭脳(理学)も手足(工学)もない状態である。
 さらに,「理学」は基本的に英語で考える必要があるが,日本人の英語不得手は相変わらずだし,英語が堪能だとどんどん海外に出ていってしまう。一方「工学」は基本的に3K(臭い,汚い,危険)で,しかも給料が安い,スキルアップが大変,モノづくりのペースに合わせなければならない,など,特に若い人には人気がない。
 学際領域でかつて人気があったのは,コンピュータ系である。これをモノづくりと連携させたのがロボットである。この分野では日本は海外をリードしたが,結局は3K作業の代替が中心となり,その後の介護や災害救助,癒しなどの分野への展開はほとんど行われなかった。ドローンも作れなかった。さらに,金融,翻訳,そしてAI(人工知能)などの応用展開も海外の後塵を拝している。
 バイオテクノロジーでは,基礎研究分野から応用開発分野まで,多くの人材が必要である。多くの研究をし,その特許を押さえることが,この分野の必須戦略である。特に,クスリの分野ではこの特許戦略は重要で,欧米の大手化学メーカー,クスリメーカーは,壮絶な戦いを過去にも繰り広げてきた。人材を使うためには人件費は必須である。しかし,人材も予算もケチった日本は,特許分野で基本特許のほとんどをアメリカと中国に押さえられ,身動きができない。今さら,という状況になっている。
 コンピュータの応用分野であるゲームの世界も,家庭用ゲームやゲームセンターで一世を風靡した日本だが,今やe-Sportsというネット対戦での賞金稼ぎの文化がメジャーになりつつある。細々とブログを書いてそこに掲載される広告の収入で収入を得ていた段階から,YouTubeという動画メディアで独自のコンテンツを配信し,けた違いの広告収入を得ている層に移りつつある。AIも翻訳もかつては日本がリードしていたのに,いつの間にか出番がなくなっている。
 唯一残っているクルマ産業にしても,かつては粘土を手で削って外形を作っていた(クレイモデル)が,今は多くはCG(コンピュータグラフィック)上で完結してしまう。しかしこれがスマートだと思っていた矢先に,海外で3Dプリンターが作られた。立体データを自動的に作成して,試作はおろか,製品の部品まで作れるようになってしまった。
 日本はあとは何ができるのだろう。プラント輸出で外貨を稼ぐにしても,石炭火力発電設備はもはや輸出できない。ならばあと日本でしかできないと思われるのが,水素燃焼発電プラントではないだろうか。日本の製造業の総合力で,国内向け需要だけでなく,海外向けの需要にも答えることができるのではないだるか。日本の研究開発・製造技術が唯一,世界に貢献できる分野だと確信する。
 ここは理工連携で進めるべきところである。問題は,省庁の壁であろうか。