jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

終(つい)の棲み家などないものか--20年しか持たない家って何だろう

100年耐久住宅というのがある。3世代ぐらいにわたって使える高品質住宅というイメージである。本当にそうなのだろうか。

 筆者の実家は戦後に建てられたが,1995年の阪神淡路大震災でも崩れず,屋根瓦が壊れることもなかった。しかし親が他界して兄が引き継いだ際,取り壊して新築になった。昔の住宅ながら60年間,ほとんど手を入れることもなかった。

 筆者は大学時代の下宿生活から社会人でのアパート住まい,そしてマンション購入と進んだが,家族を持って戸建て住宅を入手した。建売物件をいくつも見,場所にこだわって入手したのが今の自宅である。その会社の社長宅を造った職人が担当した家なので,作りもしっかりしている,と言われていた。実際,一般的な建売住宅よりもきしみなどの狂いがないと後に評価もされたので,小さい家ながらもいい買い物をしたと思っていた。

 建てられたのが阪神淡路大震災直前で,震災以後に耐震基準が改定された。現在のベタ基礎ではない標準基礎である。たまたま,地理的に東日本大震災の際も揺れは少なかった。さすがに首都圏直下地震への不安はあるが,それなりに補強工事もしてもらったので,耐えられるだろうと思っている。

 建売住宅の場合,トータルコストが決まっているらしい。売りモノにするには,部屋の内装などの見た目にある程度コストをかける。その分,最も低コスト化を図るのが屋根だという。そこで,スレート屋根が採用される。瓦の代わりにコンクリートの板を並べるので,見た目の工夫はいろいろできる。しかし耐久性が低く,割れたところから雨漏りしやすいという。また,数年ごとに塗り替えをする必要があるという。

 長く住みたい,という思いで思い切って屋根を高耐久の金属プレートに葺き替えた。たしかにそのときには20年保証という話だった。

 数年ごとに点検を受け,釘の浮きなどを修正したり,コーキングの埋め直しもされていた。しかし,25年経った今年の点検では,驚くべき結果を知らされた。金属プレートの塗装が浮いたり錆びたりがかなり進行しているというのである。

 どの業界も結局は同じなのだが建築業界も,家を建てた業者や職人がずっとそのお守りをしてくれるわけではない。屋根の点検業務も,次から次へと業者が変わって行き,一貫性がなかったことも知り,途中の点検が正しく行われていたかどうかも今となってはあいまいである。そして,今回の点検で明らかになった塗装の浮きは,基本的には修復不可能な状態で,とりあえず屋根全体の再塗装か,再葺き替えか,という段階にあるという。

 実家を思い出しても,足場を組んで修復や塗装などをしている記憶はまったくない。ほとんど建てたときのままで60年の寿命を全うしたと言える。それに比べて,25年でまた大修復が必要と言われたので,非常にショックを受けている。

 最近,ご近所でも壁の塗り替え工事は何度か見ているが,屋根の塗装や張り替えなど見たこともない。実際,周囲のスレート葺きの屋根を見ても,カビが生えたり変色したりしているが,どこもそれほど気にしていないようである。

 屋根にしても壁にしても,通常は数年しか持たないので,そのたびに塗装が必要と言われ,それが嫌なのでメンテナンスが要らないという金属屋根や金属サイディングの工事をしたのだが,確かにそれから20年が経過し,寿命が来ていると言われればそうなのかもしれない。ただ,昔の家を知っているだけに,ここでまた工事が必要と言われたのがショックなのである。

 ここ5年ぐらいで,塗料がまた新しくなったそうだ。それ以前の塗料は,酸性雨には対応していたが,PM2.5を含む新たな酸性雨には十分な耐久性がなかったらしい。今ならこの新しい塗料が使えるようだが,果たして下地が持つかどうかは疑問である。

 実家には,母屋のほかに納屋と子ども部屋があった。母屋以外は平屋であり,納屋などはコンクリートを打った上に直接柱を立て,壁は板張りだった。そして屋根はスレートの波板だった。断熱などもちろん入っているわけでもないし,もちろんエアコンなどない時代である。それでも雨漏りなどなかった。

 やはり,高度成長期の建築物は,利益優先の欠陥住宅が多かったのではないか。地震や火災に対する規制ばかり強まり,見てくれだけ規格を合格させた材料をいかにも新素材のように使って顧客を騙していたのではないか,と思ったりする。

 そういえば,施工時の作業員に外国人が混じっていたし,その後に顔を出すこともない。作りっぱなし,売りっぱなしで,数年後には連絡も取れない,あるいは倒産してしまうなど,ひどい業界とも言える。

 個性はないが,工場生産型のユニット式で,継続的に会社運営をしている大手住宅メーカーを選ぶべきだったかと,今ではかなり反省している。

 近所で親しかったお宅が今,家を完全に取り壊している。お子さんが独立されたことで,新築されるようである。建売住宅だったが筆者宅よりも新しく,耐震性能も阪神大震災以降の新基準に適応していた立派な基礎を持っていたが,基礎も壊してイチから作るようである。今度はどのような家にするのか,注文住宅になるのか,ぜひお伺いしたいと思っている。

 結局,ここで屋根を葺き替えるという大工事をしたとしても,子供の家族世代が20年過ごせてもそこでまた寿命が来る。首都直下型地震が来る可能性もあり,現在の耐震性能では半壊ぐらいまでは行ってしまうかもしれない。何しろ,取り壊すだけで500万円はかかるそうなので,地震で被害が出て公的資金で取り壊すことを期待すると,今これ以上の投資は無駄かなと思ったりする。しかし,塗装業者だけを喜ばせるのも不本意なのである。

 どこかで家族会議を開き,この家を引き継ぐメンバーがいるかどうか,その後のコストパフォーマンスなどを計算して,今どのような手を打つかを考えなければならないようである。残念ながら,テレビドラマのような屋敷を引き継ぐような格好良さはなかった。