筆者は,実はモノづくりの技術者,研究者を目指して勉強をしていた。しかし,Japan as No.1を支えていた大手モノづくり企業は,学部卒レベルの知識では研究職には就くことはできず,大学院卒が求められていた。筆者は,専門課程で必要とされた数学がチンプンカンプンで大学院には進めなかった。モノづくりの現場に入ることは本意ではなかった。そこで,モノづくりを応援し加速するサポートをできるメディアの仕事を手に入れることができた。
ベンチャーとして起業する人が増えるのは,それから5年ほど先のことである。新しいアイディアを基に新しい製品を作る新しい会社が設立された。しかし,モノづくり産業は膨大な資金が必要になる。日本にはベンチャーに対して本気で投資するキャピタルがほとんど存在しない。それから40年,今ではクラウドファンディングという新しい資金集めの方法ができたが,当時は資金集めは大変で,大企業にベンチャー企業を買収させるしか方法がなかった。
一方で,モノづくりを国家プロジェクトとして強力にサポートしたのが,韓国,台湾,中国である。主軸となる大企業を国営企業として育て,関連企業にも投資して産業全体をまとめたから,今のモノづくりNo.1の地位を築くことができた。日本は,方向性を失い,マネーゲームに走り,バブルを弾けさせた。基本となるGNPを稼げるモノづくり産業をないがしろにしたのである。
日本のモノづくり企業は,かつては自前の研究所を持って基礎研究からじっくりと進めて来たが,選択と集中で基礎研究所や中央研究所を次々と閉鎖し,応用研究,製品研究に走った。しかし,モノづくりでは人件費というコストの重さが大きい。同じ品質の製品であれば価格の安いものが選ばれる。かといって,高機能を目指したとしても,メジャーのマーケットを取ることはできない。
その後の日本は,金融,観光,デジタル(アニメ,ゲーム)などを盛り立てようとしている。しかし,プラットフォームなどの難解な部分は開発せず,Youtubeコンテンツの作成など,規制のかからないオンラインに逃げて自分のためだけの小金稼ぎに安易に走ってしまいがちである。いわば虚業への起業である。
一方で,既存企業へ就職するという道を選ぶ場合,これまでのような大手企業などへの希望就職の道は極めて狭くなっている。その次の選択肢が極めてブラックになっている。
安定を求めて地方公務員の道を選ぶこともあるが,地方行政も現在は極めて財政が厳しくなっている。
国の国力は,国外に向けて何をアピールできるかで決まる。アメリカはITと軍事と食糧,ロシアはエネルギーと食糧,中国はモノづくりと資源と食糧である。台湾は半導体と技術,韓国はディスプレイと技術をそれぞれ国外にアピールしている。
では日本はどうだろう。かつてはモノづくりだったが,今残っているのはハイブリッドカーをメインとした自動車産業だけである。ITも二流,食糧は自給率1桁,エネルギーは全面輸入,そして理系人材が育たず技術立国も二流になった。観光立国をアピールすればオーバーツーリズムになり,科学立国を唱えても物理,化学,生物,地学といずれも研究者としてその行き先がない。ほとんどすべての大学が,専門資格を取るための専門学校化しており,つまり「ワーカー」としての人材輩出しかできない事態になっている。そのワーカーは,人件費節約のため,外国人労働者を実習生から社員へと制度転換した。雇用の順位からすると外国人労働者の方が上になってしまう可能性もある。
改めて,今日本が宣言すべきなのは「環境・食糧立国」である。一部の自治体が始めた水素エネルギープラットフォームを全国的に整備することと,海外展開すること,そして陸上養殖,植物工場により,安定した農作物生産を可能にし,そのノウハウを輸出することである。この全国プロジェクトにより,国に雇用が生まれ,安定した収入が得られ,家庭を維持することができ,少子化も歯止めがかかるというシナリオである。
思いつきで400万円でできるような虚業への起業では,日本は救えない。いますぐ,半導体工場への投資をやめて,エネルギー,食糧生産に予算を回すべきだと考える。