日経平均株価が乱高下している。2024年8月2日の終値は35,909.70円,8月5日の終値は31,458.42円,8月6日の終値は34,675.46円,8月7日の終値は35,089.62円で,1日の下げが4000円を超え,リーマンショック時の下げ幅を超えたという。翌日の上げ幅も記録的だった。
さて,日本政府が「貯蓄より投資へ」と誘導し,銀行の預金金利はほぼゼロ%,個人の投資による非課税資産枠のNISAを拡大する,として,投資を煽ってきた。筆者も2020年ごろにある投資プログラムの資料を入手し,準備を始めていたのだが,新型コロナウイルス禍が勃発し,さらにウクライナ紛争が始まり,世の中が不穏になったので,ずっと保留してきている。いずれもこれほど長引くとは思っていなかったし,さらにパレスチナ・ガザ地区をめぐるイスラエルとイランの紛争が起こり,これも収拾しないどころか,戦争への発展懸念や,さらに核兵器の使用までちらつくようになり,毎日が不安である。その中で,日本銀行が金利を上げると発表したことがきっかけで,為替相場が円高に振れ,日本株の売却が起きて大幅下落となった。
しかし,それに続く大幅な株価上昇は,明らかに投機筋による株価操作である。株価が下がったところで株を大量に買い,上昇時で利ざやを稼ぐという,まさにマネーゲームが行われた形になる。
株式を運用する際,株価の下落に対しては株を所有するために下落分を支える「追証」を投入する必要がある。つまり,持ち株と同じだけの動かせる資金を持っていない限り,株を維持できない。株を面白く運用できる人は,こうした余裕資金を持つ金持ちである。1億円を投資し,値下がりしてもその分の追証を埋め合わせ,さらに損を取り返すために安値で株を購入する。いったん1億円の損が出たとしても,2億円利益を出せば元が取れる,といった計算と運用ができる人でない限り,資産を増やすことができない。元々の投資の単位が億だとして,その資産が何十億もあれば,いくら損しても,また取り返すという繰り返しができる。多くの一般庶民は,そのようなマネーゲームができる余裕はない。
もちろん,中には頭が良くて,たまたまいい銘柄を持ったことで,億万長者になった人もいる。投資のノウハウ本を書き,それがまた売れたりする。しかし,理論や理屈でなんとかなる世界ではなさそうなのではないかと思うのである。
政府がNISAで投資しようと宣伝し,NISAは確実と思って多くの投資が行われている。今回の乱高下の影響で評価額はかなり下がってしまったのではないだろうか。NISAが数十年という長期に渡る投資だから,安心して持ち続けろ,と言われても,不安になるかもしれない。
20歳で社会人になって給料や収入が得られるようになり,たとえば30歳で結婚したとして,子どもの学費が必要になるのが45歳ぐらい。その間,家を買ったり,クルマを買ったりとさまざまな出費がある。長期投資で仮に1000万円の資金ができたとしても,それは子ども1人分の学費にしかならない。その途中に資産価値の上下があるとすると,もはや不安しか残っていないように思われる。複数の子どもを安心して育てるという環境にはほど遠い。
一般企業では,業績悪化で赤字決算を出しても,銀行の信用があれば事業継続できる。もちろん赤字が続いて不可逆の状態になれば倒産である。しかし,個人の場合,赤字になっても誰も支えてくれる仕組みがない。成功して大儲けした人の話ばかり喧伝されるが,失敗して露頭に迷っている人のことは無視される。
そもそも,銀行の企業に対する「融資」は,企業に対する投資である。企業の事業内容を評価し,将来展望を見極めた上で融資し,そのリターンを利子として取る。その利益の一部を,貯金の金利として還元するのが流れである。つまり,国民は銀行というプロの投資家に金を預けて運用してもらう理屈だった。
ところが銀行の投資先である企業が,経済の停滞で業績不良となり,融資ができなくなって倒産してしまうケースが2000年以降急増している。そもそも,モノ作り産業の低迷が大きく響いている。国民への投資のススメは,プロが失敗した企業融資の肩代わりを素人の国民に押し付けているような気がするのである。
一般国民が,マネーゲームに走り始めたら,一般企業への就業率が下がり,国民総生産が減って経済がさらに低迷するというマイナスのループを引き起こす危険がある。汗水流して働くことを嫌い,自宅のパソコンでお金を動かすことに終始していては,個人の資産は増えるかもしれないが,結局日本からは何も生まれなくなる。労働力が減少し,さらにモノ作りや運輸などが停滞してしまう。
政府は少なくとも,投資に失敗して露頭に迷う人を救済する仕組みを提供すべきでないだろうか。マイナスになったときに引き続き取り戻すチャンスを2年間サポートする制度などがなければ,自己破産するか悪徳金融業者の歯牙に掛かってしまう。一方で,無理な投資に対するアラートと指導ができるような仕組みも構築してほしい。
今回のような株価の乱高下は,大型投資家の動きとともに,小金投資家によるパニック投機を誘発したためと分析されている。どうせ,短期の値動きによる差額で利益を取ろうとする「投機屋」の横行が引き起こした現象である。大型投資家によるプログラム運用がリーマン・ショックでは問題になったが,結局改善されていないことが明るみに出た形である。おそらくAIによるより高度な投機運用が組み込まれつつあると思われるのだが,経済の健全な発展のためには「投機」を抑制するAI機能も必要になってくると思われる。
生成AIで,人間の知性や理性,感性に関わる分野を脅かすのは止めて,経済の安定,国民生活の安定,世界平和,環境破壊の抑制,食糧資源の確保,といった世界的な課題の解決に人間の知性とAIの活用をすべきではないだろうか。