jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

ウナギの蒲焼はなぜあの味付けなのか--素材の味は生かされているのか

2024年9月に入ってもまだ猛暑日が続き,熱中症まで発生している。暑い日と言えば「ウナギの蒲焼」である。筆者はもちろん好きだし,おいしいと思っている。

 ただ,タイトルに書いたように,その味付けが「濃い」「甘い」と決まっているのが,少し不思議なのである。

 たれを付けずに焼く「白焼き」が,ウナギ本来の味であり,一般に醤油とワサビで味わう。ウナギの脂の多さが,ワサビとうまくマッチしておいしいと思う。マグロのトロの寿司を醤油とワサビで食べるとおいしいのと同じ理由かと思う。「炙り(あぶり)」で食べている感覚だと思う。

 一方,通常のウナギの蒲焼は,焼きとタレをくぐらせることを何度か繰り返し,ウナギの表面に味を固定した上で,最後にタレをくぐらせる。ご飯にもタレをかける。好みにもよるが,粉サンショウを掛けて食べる。

 どんぶりモノ,お重モノでは,たとえば天ぷらだと薄口醤油ベースの天つゆをご飯にも掛けるし,トンカツは濃口醤油ベースの丼つゆをご飯にも掛ける。しかし天ぷらやトンカツに味が付いているので,ご飯はつゆなしでも十分バランスよく食べられる。

 ウナギの蒲焼は,ウナギそのものにもご飯にも甘くて濃いタレがしっかり掛かっている。そのためかどうかわからないが,同じご飯の量に対してウナギの量が1/4身,半身,1尾,2尾など,値段によって量が変わる。もちろん,ウナギの年齢,体長,体格などによっても,値段は変わってくる。年齢によって,脂の乗りが違い,若いウナギほど脂分が少なめでさっぱりしているという。

 ウナギの稚魚の捕獲量が激減し,絶滅危惧種に数えられるようになっており,ウナギの価格の高騰が続いている。日本以外の国でもウナギの稚魚の漁が盛んで,その影響も出ているという。産卵させて卵から稚魚を孵化させ,これを養殖して大きく育てるという完全養殖は,まだ確立していない。養殖そのものは陸上のため池で行われており,比較的安定している。しかし,ウナギが産卵して稚魚になるプロセスは未解明である。このまま行けば,ウナギを食べられなくなる日もそう遠い話ではないのかもしれない。

 埼玉県川口市では,以前からナマズを蒲焼にして提供している。同じ淡水魚だが,イメージとしてはナマズは泥臭い感じがするのだが,実際は脂が乗っていて味はウナギに負けずとも劣らないという。さらに,タラなどの白身魚をベースにし,ウナギの蒲焼の形に成形する試みも進められている。

 いずれにしても,「ウナギの蒲焼」に代替させたとしても,「ウナギの蒲焼」らしく感じさせている最大のポイントは,タレの味だと思うのである。実際,蒲焼のタレの中には,これまで焼きとタレくぐらせを繰り返しおこなってきたことによるウナギの脂や香りが溶け込んでいる。タレをご飯に掛けただけでも,鰻丼を食べているような気持ちになる理由である。

 ウナギの蒲焼は,日本食の代表的なメニューの1つだと思うが,そこにウナギという素材そのものの味は生かされているだろうかと考えると,ちょっと心もとなくなってくる。江戸時代に開発されたミリンで甘く味付けし,ミリンと醤油のよく言われる1:1の黄金比率による味付けが定着したのだが,それは当時のウナギが天然モノで,淡水魚特有の臭みがあったものを消すための味付けではなかったのかと思うのである。

 現在,食されているウナギは9割は養殖モノであり,人工的に与えられた餌によって味は安定している。養殖池で成長させるため,水質管理も十分されており,泥臭さもない。

 おそらく,白焼きで食べた方が,ウナギ本来の味が楽しめると思うのである。牛肉のステーキも,塩とコショウだけでいただくのが素材の味が楽しめて最もおいしい。味付けはシンプルなのが一番だと思う。「100年続いた秘伝のタレ」も結構だが,ウナギそのものの味で勝負する店が出てきてほしい。でないと,すでに日本の一般家庭の食卓に出てくるウナギの蒲焼が,中国でさばかれて中国の自動生産機械で製造され,タレとともにパックされて日本に輸出され,家庭では湯煎で温めるだけ,という悲しい事態が今後も続くことになってしまうように思われるし,フグ,アサリなどで起きている産地偽装などの対象にもなりかねない(あるいは既になっているかもしれない)。