自転車のバックモニターとして車載用小型カメラを使う--12V電源の確保も実験中【追記】 - jeyseni's diary (hatenablog.com) (2024/9/22)を書いて再認識したのが「屋外用のモニターが見づらい」ことである。
かつて,液晶パネルが実用的に使われたのは,デジタル置き時計など,数字を構成する8本の線状のセグメントが光を通すか遮るかのオンオフで動作させる反射型液晶パネルだった。外からの光を背面のミラーで反射し,その光が通れば背景色と同じで透明,遮れば黒でセグメントが見えるようになる。屋外でも室内でも使え,室内の場合は逆に夜は暗くなるので,前面(上面)から照明光を当てるような仕組みだった。
同じ仕組みで反射板を使わず,透過型のパネルでは夜間はバックライトを点けることで表示が認識できた。
8セグメントの数字表示から,ドット構成になって,アルファベットが表現できるようになり,さらにドットが細かくなって現在のディスプレイにつながってくる。1ドットをRGB3色で表現するようになって,カラー表示もできるようになった。
最初の液晶パネルは,直交した偏光フィルターを2枚通すだけなので,光量は半減するだけで済む。オンかオフかだけなので,コントラスト比は100%である。ところがカラーになるとそれぞれのカラーフィルターを通ることで光量はさらに1/3になる。
画面を明るく表示するには,バックライトの輝度を上げる必要があり,当然のことながら電力を多く消費する。蛍光灯バックライトからLEDバックライト,さらに表示に合わせて部分的に光らせるなどのテクニックで,コントラスト比と応答速度を稼ぐ努力が行われてきて,大画面の液晶パネルでは実用的に速い動画も表示できるようになった。
一方,屋外用ディスプレイは需要が限定されているので,今のところ革新的な開発はあまり見られない。今回のトライアルのような,自転車やバイクのように直射日光の下で視認を求められる用途は極めて特殊だからである。
ディスプレイのサイズが大きくなったスマートフォンをハンドルや車体に取り付ける使い方が紹介されたが,スマホのカメラがバイクの振動で壊れやすいということで,振動を吸収できるマウンターも販売されている。それでも直射日光下では表示を見づらい。対応策として,日光を3面で遮るシェードを加えるという,あまり恰好のよくない方法が現実的である。
バイク用のナビで,もはや地図表示をせずに,進行方向だけを矢印と音声で指示する製品も出てきた。バイク専用ならこちらの方が視線を外す頻度が減り,安全性は高い。また矢印表示だけなので,コントラスト比も高く表示できる。表示面積も少なく,バックライトの輝度を高めても消費電力を抑えることができる。
一方で,普通の地図でナビしたり,バックカメラの映像を映したりするには,カラーディスプレイが求められる。ここはバックライトの輝度を高めるか,表面の映り込みを減らすフィルターを貼るか,といった選択肢しか,今のところ見当たらない。
もともと,ディスプレイの元祖であるブラウン管は,表示面で蛍光体が自発光するので,外光が当たると表示が見にくくなった。同じ原理のプラズマディスプレイも,外光が当たるとコントラストが低下した。最新で折り畳みディスプレイを実現した有機ELパネルも自発光型であり,外光には弱い。これらの自発光型ディスプレイは,外光に対してコントラストを維持するには,発光強度を上げる必要があるが,特に有機ELパネルでは流せる電力に限度がある。
デジタルサイネージと呼ぶ屋外向け広告ディスプレイでは,高輝度のバックライトを搭載した液晶パネルを使うが,モバイルバッテリーでの運用は基本的に無理な仕様になっている。ビルのサイネージなど,超大型ディスプレイは,高輝度LED素子をびっしり敷き詰めてフルカラーを実現している。同じことをモバイル用に応用しようとしても,素子がない,発熱量が大きいということになり,量産も難しくて低コスト化は困難である。
一方,電子ペーパーは反射型で,屋外での使用に適している。周囲が明るければ明るいほど,コントラストが上がり,視認性が高くなるからである。しかし問題点として,動作速度が遅いため,動画表示やスクロール表示に弱いことと,カラー表示で鮮やかな色を出すのがまだ難しい点が挙げられる。基本原理は,液体の中に浮かんだ粒子が移動したり回転したりすることで表示を切り替えるため,動作が遅い。時計表示のように1秒に1回切り替わるぐらいなら問題ないが,秒30コマという動画の表示は難しい。したがって,書籍,モノクロ書類などの静的な表示をすると,紙で文字を見ているような見やすさが得られる。それでも,画面を切り替える際には,一度クリアする必要があり,画面が一瞬白くなったり黒くなったりする。これも気になる場合が多い。
さて最初に戻って,反射型液晶パネルでカラー化を実現すれば,屋外での動画表示に対応できる。現在,このパネルを製造しているのは,中国のTCLの「NXTPAPER」のみのようである。タブレットとスマホに搭載したモデルが中国では販売されており,日本では販売されていないようである。画面を見る限り,発色も良く,屋外での使用でかえって威力を発揮する様子がうかがえる。
日本でバイク用に販売されているディスプレイオーディオで使われているのはIPS液晶パネルが多い。視野角が広く明るいし,屋外でも比較的視認性は高い。もともとはテレビ用の高品質液晶パネルとして開発された方式なので,ちょっともったいない気もするが,PC用モニターやタブレットでは当たり前のようになってしまった。
食指の動くNEXPAPERをウオッチしつつ,次のトライアルをまた考えてみたい。