2024年11月の衆議院議員選挙で与党の自由民主党と公明党が過半数割れという大敗を喫し,議員を3倍増した国民民主党との政策協力話が進んでいる。その中で,扶養控除対象となる103万円を巡る議論が焦点の1つとなっている。
一方で,パート,アルバイトなどの形態での時給単価の増額が年々進んでおり,現在の全国最低時給の平均が1055円に増加した。今回の選挙では,この最低時給を1500円や1800円に上げるという公約を掲げた党もある。
しかし,この数字を出している厚生労働省の役人や,選挙公約を掲げる政党,政治家は,実際の労働状況をほとんど知らないのではないかと思われるのである。
アメリカ大統領に返り咲くことが決まったトランプ氏が,選挙遊説中にマクドナルドのアルバイトをしたり,トラックの運転手をしているパフォーマンスを見せたりしていた。対戦相手のハリス氏の経験を逆手に取って庶民派層に理解を求める作戦だったろう。この作戦が功を奏したかどうかはわからない。筆者は逆の印象を持った。
というのも,こうしたアルバイト勤務の多くが,いわゆるエッセンシャル・ワークだからである。基本的に,長時間同じ体勢で同じ作業を繰り返す。自分のペースではなく,相手や機械のペースで仕事を続けなければならない。屋外での仕事も多く,天候や気温に左右されても文句が言えない。
一般に,経験を積んで作業能力が上がると時給増という形での評価はなくはないが,それも雇い主による。10円単位で上がっていったとしても天井はそれぞれの働き先で決められている。最低賃金が上がった場合,スタートはその最低賃金からになるだろうが,今度は上がり幅の圧縮などの措置が取られ,いつまで仕事をしても待遇が改善しないという状況が起きる。
時給が上がって,年収103万円の壁があると,仕事の日数や時間数を制限しなければならなくなる。この壁がなくなれば,働く側も日数を制限しなくて済み,雇い側も仕事に穴が開くのを防ぐことができる。しかし,支払いの総額は増える。
一方で,103万円を超えていた場合は,扶養控除が適用されなくなり,その分は税金として徴収できていたものが,税収にならなくなり,なんと年間7兆円もの税の減収になるという。実際,それだけ多くの人がパート,アルバイト,非正規で働いているということである。
おそらく,この制度が作られたときは,家族の中で夫が働いて家族を養い(扶養し),収入の使い道もすべて夫が決めてしまうので,妻が自由に使えるちょっとした内職や手伝いなどの収入に対して課税を免除する,という環境があったのだろう。筆者もそれをほとんど気にもしなかったし,自分が家庭を持ったときも妻には子育てに注力してもらいたいと思った古い人間である。
しかし現在,夫の稼ぎだけでは家族を養えないほど,給与水準は下がっている。総務省が発表する「平均所得が上がった」とする統計ほど,無意味なものはない。平均所得が600万円だとして,それに達していない人でも200万円ぐらいの所得はある。その差は400万円である。一方,平均所得より上の人は青天井である。大手企業であれば1000万円は普通である。国会議員は2000万円クラス,役員,経営者ともなれば億円のクラスになる。その差額まで入っているのだから,正規分布になっておらず,平均を取ること自体に意味がないのに,いかにも景気が良くなったような数字を出してくる。何しろ官僚の所得も1500万円クラスなのだから,庶民感覚とはかけ離れているし,自分たちは年々給与水準が上がっているので,「世間も上がっている」と勘違いしてしまうのだろう。
高度成長期にはDINKS(Double Income No Kids=夫婦共稼ぎで子供なし)が優雅な世帯としてもてはやされた。夫はベンチャー経営者や青年実業家,妻は弁護士やコンサルタント,といったハイソサエティなイメージで,「子供は厄介だから要らない」とばかり,自分たちだけの生活を楽しむスタイルである。扶養関係もない。お互いが独立して確定申告をするような生活である。
しかし,今の共稼ぎは悲惨である。夫が勤め人で給料が増えず,その補填のために妻がパートで働く。総合収入が少ないが,夢のある家庭なので子供も生まれる。妻も働きに出るので,子育ても放置がちになる。その負担が学校に押し寄せてきて,教育環境も破壊の危機に陥る。
「国を守る」と言って「防災省」を作るのは構わないが,その命令下で動くのは基本的に自衛隊である。だとすると,防衛省との指揮系統をどう調整するのかが問題になる。さらに,同じ宣言の下に防衛能力を高めることも重要だが,単に高い装備を買ってアメリカの軍事産業を喜ばせるだけになっていないか。災害時のドローン利用がまったく進まない日本--自衛隊のカリキュラムにはどう組み込むつもりか - jeyseni's diary (2024/11/4)と書いたように,比較的低コストで効果的なドローンや,レーザー砲など,守備側の装備とその訓練をした方が効果的ではないか。迎撃ミサイルを買っても災害には役立たないが,ドローン部隊ならさまざまな活躍が期待できる。
それ以上に,国民の「生活を守る」のなら,企業努力へのしわ寄せばかり押し付ける給与水準の引き上げや最低賃金の引き上げばかり要求していては,今度は企業の体力が失われる。現実,給与引き上げができているのは,内部留保があった大手企業だけであり,中小零細企業は給与引き上げどころか引き下げまで行われている。その中で,国をけん引しているはずの自動車産業で業績悪化によるリストラが発表されるなど,政府も与党も「口ばっかり」なのである。
日本復活のシナリオを早急に構築し,それに必要な産業は何か,人材は何か,そして国民生活の安定のための恒久的な給付金制度を実現しなければ,デイトレードなどのほぼギャンブラーやe-スポーツなどのほぼゲーマー,ギャル育成をするような学校(渋谷女子インターナショナルスクール(シブジョ):世界に羽ばたく女性を応援します)のようなエンタメ系Youtuber,そして,詐欺や闇バイトなどの“非正規”仕事ばかりが横行する国となり,科学立国どころか観光立国すら危うくなってしまう。
水素エネルギーへの取り組みが少し始まっているが,筆者としてはかなり期待薄になってしまっている。ならば,せっかくの島国なのだから,海を最大限活用した食糧資源の開発に注力してはどうだろうか。昆虫食より水草--タンパク質も豊富な新しい食材が紹介された - jeyseni's diary (2024/11/2)。植物性タンパク質を使ったヘルシーな食糧という日本らしいアピールができるのではないだろうか。そして,その陸上養殖プラントも同時開発して,システムを海外に売るビジネスが,今,日本でできる最先端の産業ではないかと思うのである。宇宙もバイオも捨てていい。食糧生産に徹底的な投資をしてほしい。令和のコメ騒動など起こること自体が,すでに後進国であることを示していると思うからである。