2024年の流行語大賞は「ふてほど」だという。ドラマ「不適切にもほどがある」の短縮形とのこと。
筆者は「聞いたことがない」言葉だった。受賞した阿部サダヲさんも自分たちでは言ったことがないとコメントしていた。
これこそまさに「不適切にもほどがある」かなと思ったのだが、考えてみると流行語とされる言葉が,もはやテレビではなく,SNS上で増幅しているようである。
SNSを主体的に使っているのは若者で,しかも独自の言葉文化を構築している。すべての言葉が短縮される。「あけおめ」(あけましておめでとう)などというのは,季節性があるし,たまたまだが韻を踏んでいるから響きもよく,老齢の筆者でも理解可能だが,「ふてほど」は筆者には全く響いてこない。
2024年ほど,SNSの底力というか沼の深さを思い知らされた年はないと思うが,選挙だけでなく,こんな言葉の増殖にも強い力を持っていることを改めて恐ろしく感じる。新語が街中で生まれるのに対し,流行語はSNS上で拡散する。新語辞典は,国語辞書編纂者が街中で見かけた新しい言葉を丹念に収集して選択するそうだが,流行語はもはや街中ではなく,SNS上の文化になってしまったのではないだろうか。ならば,流行語大賞をテレビやマスメディアの前で発表するなど,まったく無意味なことで,SNS上で仮想発表会をすればいいということになる。
2023年流行語にモノ申す--「A・R・E」が時代を象徴するとは,日本語も終わりと感じた件 - jeyseni's diary (2023/12/6)と,去年もこの流行語に失望したものだが,今年はもはや賞の価値すらないと判断した。
書籍のタイトルは,年々長くなっているそうである。従来が6文字前後だったのが,10文字前後が平均になっているという統計がある(ヒット本、長くなる題名 半世紀で2倍、注目優先のネット文化波及 - 日本経済新聞)。調査は出版科学研究所という公的機関である。先の「ふてほど」の原題も10文字だし,文章になっているようなタイトルがあまりにも増えすぎていて気持ちが悪い。若者が略語をどんどん作り出すのは,一種の隠語づくりみたいな感覚なのだろうか。スマホ時代を象徴しているともいえよう。
「闇バイト」だの「ホワイト案件」だの「裏金問題」だの,流行ってほしくない言葉が蔓延しているのは,社会として成り立っていないのと同じである。「言葉で遊ぶな」と言いたいし,表立った流行語大賞は今回を限りに終了していただきたい。SNS上で展開するのは勝手にどうぞ,ということでもある。