街中には「他人の目」がある。変な恰好や行動は目につく。これが犯罪の抑止力になる。それでも,人目につかない場所だと,理性にブレーキが掛かり,欲望を抑えることができず,良からぬ考えを起こし,犯罪に手を染めてしまう危険性がある。ただし,ちょっとした空間や時間のギャップがあることで,ふと我に返って現実に立ち向かうチャンスが残されている。
しかし,インターネットの世界には,こうした歯止めが掛かりにくい性質がある。「他人の目」もなく,しかも反射的にクリックしてしまうことで,後戻りができなくなる。我に返った時には,すでに犯罪の道に入り込んでしまっている可能性がある。
しかも,現実の世界ではありえないほど甘い言葉がささやかれるとともに,写真や動画,そしてテキスト情報すら,捏造されたフェイク情報だったり,信頼できる機関名の盗用だったりする。詐欺に引っ掛かるのと同じ流れで,悪の道に入り込んでしまう。
現実社会で裏社会につながっている団体といえば,悪徳金融業者や性風俗店のほか,暴力団,マフィア,一部の新興宗教など,何らかの実体のある存在であり,これに対応する警察や検察,税務署などの公的機関と担当者が存在する。これも抑止力になるとともに,場合によってはその団体の壊滅ができたりする。
しかしインターネットによって裏社会につながった瞬間に,そこはもはや無法地帯であり,監視機関も摘発機関もなくなる。しかも,組織的な裏社会だけでなく,すべての個人の心の中に潜む悪魔が,自らを反社会的犯罪の首謀者にしてしまう危険性がある。匿名での登録,匿名での相手への誹謗中傷や恐喝,プライバシーの侵害,さらにフェイク情報の発信までできてしまう。
リテラシーとは,「読み書きの能力」であり,特定の分野における基礎的な知識や判断力を指す言葉とされている。ITリテラシーは,コンピュータなどを使う知識やプログラミングの知識というポジティブな響きがあるが,ネットワーク・リテラシーという言葉になった途端に,ハッキングなどの操作上の違法行為や,本来立ち入るべきではない領域に立ち入ることができる能力であったりする。
かつては,プログラミングの腕試しのためにウイルスソフトを自作し,その手腕を自慢するといった,ある意味でヤンチャなプログラマーが多かった。その後,悪意に満ちたウイルスソフトは,組織的なグループや果ては国家機関がネット戦争のために開発をして,個人情報を盗み出したり,標的のコンピュータシステムを破壊するまでに至った。ここまではまだ,裏組織や国家間の情報戦争といった段階であり,一般人は間接的な被害こそ受ける可能性はあるものの,ある意味で遠い世界の話だった。
ところが,インターネットではいまや,個人が他人の目を気にすることなく,犯罪行為を日々行える環境になっている。専門のプログラミング知識がなくても,生成AIで悪質なソフトを作ったり,暗証番号を突破してシステムに侵入したりといった行為が,簡単にできるようになった。しかも,日本のある中学生がハッキングまでしてしまった。
もはや,リテラシーの問題ではなくなっている。ネットを利用する人はすべて,「コンプライアンス」審査を受ける必要がある。すなわち,ネットを使う場合,その接続先が違法であったり,不要な言動をアップロードしたり,違法な情報をダウンロードしたりした場合,ただちにネット警察に通報されて行動把握と居場所確認,そして拘束までつながることを約束させるべきだし,そのチェックの仕組みを組み込むべきであると思うのである。
小中学校から始まったタブレット学習,スマホ利用,そしてPCの利用について,管理が必要である。秘匿性の高いネットワークは,これを停止させる権限が必要である。
罪の意識のない若い世代が,ネットを通じてズルズルと悪の道に進んでいくことを,何としても止めなければならない。悪の道には甘い汁が用意されている。自分を見失わないように,周囲が,そしてシステムそのものが,守ってやる必要があると思うのである。生成AIでは,違法な画像を生成することを止めているというが,これにも抜け道があるに違いない。キャリアもプラットフォームも,まず悪用できないシステムにすべきだと筆者は考える。いや,そういう安全な設計に変えてほしい。ぜひお願いしたい。