ヤマト、ドラレコ4.6万台刷新 運転状況を可視化 - Impress Watch (2025/9/18)。このドラレコは,事故時の記録を目指した一般向けのドラレコと違って,いわば運転者の監視・管理が目的である。カメラは車外用と車内用があり,運転中の映像はタブレットなどで随時確認できるという。また,1日の運転状況はレーダーチャートとして運転日報で可視化される。
日本郵便における点呼違反や日報の偽造,アルコールチェック無視,日本航空のパイロットによる飲酒での遅刻・遅延など,ここのところ運輸関連の運転者・操縦者,およびその管理側の義務違反が続けて明らかになっている。出発前の業務点検,帰社後の業務報告などにおける不正は,社会人としても不適切だし,それを組織ぐるみで行っていたとすれば,組織そのものの体質が問われるのも仕方がない。
しかしこれは個人的な意見だが,「運転は楽しい」という意識が,運転者・操縦者の気持ちの中にはあると思うのである。でなければ,運送関係の仕事を選ばないと思う。
ハチャメチャなところで言えば,映画『トラック野郎』である。電飾をこれでもかとばかり取り付けたデコトラックで仕事をする。運転すること,クルマを恰好よく見せること,その楽しみがあるから,張り切って運送の仕事ができる。運転中も基本は1人だから誰にも邪魔されず自由。仲間との会話を楽しんだり,ラジオの音楽に合わせて歌を歌ったり,そういった開放された運転席の空間がリラックスできるのだと思う。
そこに,行動監視用のカメラが入っているとすると,1日中緊張したまま仕事をすることになる。もちろん,荒っぽい運転や危険運転は論外だが,通常運転も記録され,さらに音声も記録されるとなると,ちょっとした会話もできなくなる。
管理する側から見ても,例えば50人の運転者の毎日のすべての時間の行動や発言をすべてチェックしなければならない。基本は,急な操作を検知して,その前後を確認する,という管理にとどまるだろうが,場合によってはプライバシーを侵害しないとも限らない。
もちろん,カメラが付いていることで,非常識な行動を取らせないという抑止力にはなるだろうが,なんとなく管理側と運転者側の意思疎通にズレが生じるような気がするのである。
一般車のドラレコも,映像だけでなく音声も記録されるから,滅多なことをしゃべるわけには行かないのだが,それは個人,家族で共有する範囲のプライバシーである。しかし,業務用のドラレコでの映像や会話の録音が,ドライバーにとっての無言の圧力にならないとも限らない。
今回の記事は,ヤマト運輸という業界最大手での対策であり,企業としての責任を明確にしようというものである。日本郵便にもこうした責任感があってほしかったし,日本航空のパイロットには,高給取りの個人の資質として問題があったことは確かである。
しかし,ヤマト運輸の配送の末端で働くアルバイトドライバーや,隙間時間で配送を請け負う素人のアルバイトドライバーに,「運送業に携わっている」という意識はあるだろうか。単におこづかい稼ぎで応募してくるドライバーに,勤務意識,正しい運転意識というのはあるだろうか。管理・監視するなら,そこまで徹底しなければ,結局「運送業」に対するエッセンシャルワーク意識は払しょくできない。
運転者,操縦者とアルコール--ストレスの克服と業務の責任をどうバランスを取るか - jeyseni's diary (2025/9/7)で,筆者は自腹でアルコールチェッカーを購入したことを書いた。その後,自分の飲酒と翌朝のアルコール抜け具合を試しているが,たしかに「十分寝た」と思ってもアルコール残量があることを見つけて,早めに対応することの大事さを知った。運転者・操縦者には,こうした自己管理の意識が必要であり,管理・監視してもいいことはないように思えるのである。かえって,ドラレコが見えないところで陰でコソコソと行動するようになるような気もする。
一般オフィス内に監視カメラがついたら,社員の労働意欲は下がってしまうだろう。あくまでも,ドアや廊下などに防犯カメラとして設置し,社員の安全を守る,という目的でなければ,プライバシーの侵害になる。
少なくとも,運転技術のチェックであれば,GPS発信機のトレースだけで十分だと思われる。画像,音声まで記録・チェックするのは,やりすぎのように感じるのである。正直,この記事を読んで「ヤマトでは働きたくないな」と思ったのは筆者だけだろうか。
むしろ,工場の始業時に全員でラジオ体操をして,朝礼で今日の目標を全員で共有して,レッツゴー,とスタートして社員の一体感を高めるかつてのような姿の方が望ましいように思える。工場でも運転でも,油断をすれば危険を伴う。気を張って仕事をすることが大事だが,1日中緊張は続かない。そこをバランスよく行動することで,生産性も上がるのだと思う。