「8020運動」(80歳で20本の自分の歯を残す)などの目標が掲げられ,それに向けての正しい歯磨き方法の普及と定期的に歯医者でチェック・清掃をしてもらうのが大切と言われてきている。早期退職するまでは,定期チェックのために歯医者に行く時間を取るのはほとんど無理で,虫歯などの不具合が出たときに仕方なく行くぐらいだった。
早期退職後,次の仕事が決まるまでの間のプータローの時期に,一度ゆっくり点検してもらうことができ,それから年齢に併せて3ヶ月に1回の定期点検をお願いしている。
「歯医者さんに褒められる歯を」といったコマーシャルを見ながら,次は褒められたいと思いつつ,歯磨きの方法や歯ブラシ,歯磨き粉,その他の道具を工夫し,駆使しているのだが,3ヶ月後にはかなりの汚れが付いてしまっている。かつて朝晩2回だった歯磨き習慣を,昼食後にも実施してみたが,ほとんど関係ないように思えた。
コマーシャルを見ても,歯ブラシも歯磨き粉も次から次へと新製品が出てくる。歯ブラシだと,毛の材料,毛先の形,ブラシ先端の厚さ,植毛の幅,ミックス植毛など,キリがない。歯磨き粉も,殺菌効果や酵素分解,保湿など,こちらも手を変え品を変え登場する。さらに,手磨きではダメとばかりに電動歯ブラシでもさまざまな方式が提案され,歯間ブラシや糸楊枝,高圧水ジェットなどで歯ブラシ後に2次処理することや,洗口液で洗い流したり殺菌したりなど。歯の手入れに掛ける時間がいくらあっても足りない。
そこで矛盾するのが,歯磨き粉の発泡剤と清涼成分である。これまで,歯磨き粉の使用量として歯ブラシ全体に数センチの歯磨き粉を載せるイメージが描かれている。しかしこの量で発泡剤入り,清涼成分入りの歯磨き粉で歯磨きを始めると,あっという間に口の中が泡だらけになる。ミントなどの清涼成分による刺激もかなり強い。この状態で「3分間,1ヵ所を細かく10往復,奥歯の奥もしっかりと」などを考えながら始めてもアワアワだらけになり,とても落ち着いてブラッシングできない。結果としてガシャガシャとあわただしく歯ブラシを動かし,1分ちょっとで終了,ということになってしまいがちである。
発泡剤として入っているラウリル硫酸ナトリウムについては,口内粘膜にダメージがあると昨今は歯医者から注意が喚起されている。清涼成分も,スッキリ感できれいになったと思わせるだけで,歯磨き時間が短くなり,逆効果だと言われるようになった。さらに,研磨剤入りの歯磨き粉は,歯の表面を傷つけるのは明らかで,本来の歯磨きによる歯垢を落とすのとはほとんど関係がない。
そもそも歯垢を落とすだけなら,ブラッシングや歯間ブラシ,糸楊枝といった物理的な動作だけで十分なはずで,歯磨き粉は使用しなくてもいい。実際に歯磨き粉を付けずにブラッシングすると,歯の汚れが取れて口の中が臭くなるのがわかる。しかし,この歯垢の臭いが出ることで,また歯磨き時間は短くなってしまう。
「歯磨き効果が高い」という視点でのアンケート調査がネット上にあったりするが,上位に来るのは1本1000円以上もするような歯磨き粉で,メーカーの作為を感じてしまう。
人生70年,さまざまな理由で前歯を折ったり,治療した歯が何十年も経ってから縦割れしたりと,自分の歯を維持できなくなりつつある。ブリッジも2ヵ所になってしまった。そもそも,一生懸命歯磨きをしてきたのに,子供の頃から虫歯には悩まされてきた。虫歯菌は親からうつるというから,仕方がないのかもしれない。そんな筆者が今さらだが,現在進めている方法を紹介したい。
まず,3ヶ月ごとの歯医者による定期点検・清掃は必要悪ながら続けることは重要だと思う。歯の状態をチェックし,早い段階で不具合を見つけて修復してもらう。痛みが出てから歯医者に掛かって,結局は歯を削って埋めて,といった治療をすれば,時間もコストも掛かる。予防医療という意味で歯科医による定期チェックの依頼は必要コストだと思われる。
具体的な歯磨き方法として,「ごく少量の歯磨き粉を付けた丁寧なブラッシング」を提案する。歯磨き粉は,発泡剤,清涼成分,研磨剤が入っていないことが望ましいが,ごく少量,つまり5ミリ大をチョンと歯ブラシに載せることで,すべての成分を少しだけ使う,という方法になる。これだと,泡立ちも少なく,ミントによる刺激も少なく,研磨剤の効果も限定的になる。
この状態で1ヵ所10往復のやさしいブラッシングをするのだが,この歯磨き粉量でも結構な泡立ちをする。この泡を口の中に抱え込んでしまうと,喉の奥を刺激したりして歯磨き時間が短くなる。
そこで,たとえば歯の外側を磨き終わった時点で,口の中の泡を全部吐き出すようにしている。その後,口を開いて歯の内側を磨き始める。このとき,唾液腺を刺激することで唾液が大量に出てくる。これによって口の開きが小さくなり,ブラッシングしにくくなる。そこで,お行儀が悪いが,唾液をダラダラと口の外に流しながらブラッシングを進めることを提案する。口の中にあるものをどんどん減らすのである。
このためには,まっすぐ立って鏡を見ながらブラッシングしていると,服に歯磨き粉が垂れてしまうので,前かがみになって,ブラッシングをすることを実践している(ちなみにこの体勢を取ることになるまで,Tシャツを何枚も汚してしまった)。
そうすると,最後に奥歯の奥をブラッシングする際も,口の中にはほとんど何もないため,ゆっくりとブラッシングできるように思うのである。
筆者の場合,唾液の中にあるカルシウム成分がやや濃いらしく,これが歯石を進める理由の1つになっているらしい。歯石は一度付いてしまうと,歯ブラシではどうやっても取れない。研磨剤でも取れない。定期的な歯科医による清掃が必要な理由である。普段のブラッシングで歯垢を落とし,定期的な点検で歯石を落とす。とりあえずあと10年,この方法でがんばって8020を目指したい。