jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

擁壁は適切に作られてきたのか--ここにも高度成長期の手抜きがあったと考えられる

杉並区擁壁崩壊、原因は何だったのか?擁壁・斜面物件に要注意。チェックポイントはここだ|不動産投資の健美家。今朝のNHKが特集していた「擁壁」問題。高度成長期の急ごしらえの宅地造成から50年で,寿命を次々に迎えているとの指摘である。

 擁壁という言葉の印象は,ガッチリした壁をイメージさせる。しかし現実は単なる「土留め(どどめ)」である。ミニサイズのお城の城壁であり,石を積み上げてその自重で土を堰き止めた形である。当然,その後ろに作られた平らなスペースに荷重が掛かれば土留めを押し出そうとする力が加わる。それを石の自重と相互の摩擦で押さえるのだが,年月が経って石がずれれば,支える力は減少し,お互いにずれ,やがて土の重さを支えきれなくなって崩れるのは自明の理だろう。

 近年は,数m角の鉄筋コンクリートの板状の擁壁が使われるようになった。適切な間隔で水抜き穴もあらかじめ作られている。板同士をきちんと接合すれば強度は維持される。コンクリート自体が割れなければ,このタイプの寿命はもう少し長くなることが期待される。しかし,見た目は無機質で美しくなく,街の景観にはそぐわないという見方もできる。

 緩やかな地形でも,建物を建てるための平らな地面を作るためには,何らかの擁壁を作る必要はある。筆者の家も路地の一番奥にあり,その奥にある家との間には高さ1mの垂直のブロックの擁壁を巡らせてある。小川に向かっての緩やかな傾斜があるための擁壁であり,擁壁に対して横方向に加わる力は限定的だと思われる。しかし,すでに造成された後であり,そのブロック塀を作る際に鉄筋が適切に打ち込まれているかどうかは確認できていない。大地震の際に持ちこたえられるかどうかについての確信はない。

 比較的平坦な市内だが,もちろんアップダウンはそれなりにある。特に少し坂道になっているところの家には高さ2mぐらいの擁壁はあちらこちらで見られる。かなり古い擁壁もあるし,ヒビが入ったり,膨らんだりしている擁壁もある。これらも,大雨や大地震の影響で不具合になる危険性を否定できない。

 擁壁以外にも,ブロック塀の崩落事故が以前に相次いだ。適切に鉄筋が入っていなかったり,規定以上の段数が組まれていたり,控壁と呼ばれる支えの壁がなかったりするケースで事故が起きた。こうした違法ブロック塀がなくなったかと言えば,実はそのまま放置されたままになっているのが現状だろう。これもいつ崩れてもおかしくない。

 擁壁の補修には数百万円から場合によっては数千万円かかるという。費用負担は土地の所有者である。当然,そのような補修をする余裕のある家庭など,ほとんどない。しかし,事故が起きた場合は,擁壁の修復だけでなく,おそらく被害を受けるであろう自宅の補修,さらに擁壁の下側の家の被害の補修も受けることになる。擁壁の補修費の数倍に費用が膨らむ。人的な被害が起きれば,さらに厄介なことになる。

 NHKの調べでは,全国に修理が必要と考えられる擁壁は100万~200万箇所に上るとしている。おそらくこれから10年ぐらいの間に,倒壊被害はどんどん出てくると考えられる。仮に補修するにしても,それぞれ異なった方法を取る必要があるし,その効果が保証されるわけでもない。となれば,放置されるのは明らかである。

 高度成長期に,50年後を見込んだ設計と施工が行われたとは考えられない。考えれば,施工業者による瑕疵であり,手抜き工事である。しかしおそらく,当時の業者のほとんどは世代が変わったり潰れてしまったりしていると考えられる。

 1995年の阪神・淡路大震災以降,鉄道や道路などの公共施設を囲む擁壁や法面の補強,固定策はある程度進められた。都内でいえば,地下鉄の地上部分には高さ5mほどの擁壁があり,その壁面の崩壊を防ぐためのアンカーの打ち込みが行われている。しかし,このアンカーにしても打ち込まれた先は土の中であり,絶対に確実な方法という保証はないと思われる。

 擁壁の上の家は基本的には見晴らしがよく,日も十分に当たるので,住まいとしては1つの理想形であり,人気も高いことが予想される。筆者も家を選ぶ際に坂の上にある家を見学したことがある。そこは斜面の上は庭になっており,庭の下は車庫になっていた。家の玄関までは急な坂を15mほど上がる必要があった。南向きで日当たりもよく,非常に魅力的に思えた。ただ,玄関までの坂が歳を取ってからや怪我をしたときなどに不便かなと思われたことと,雨の日に水が流れるだろうこと,さらに冬場に道が凍る可能性を考えると,選択肢から外れることになった。

 平地での住宅の選択肢は限られる。しかし日本の人口もピークを越えて減少し続けている。より安全な住宅地の整備など,新しい視点での国策が必要ではないだろうか。この辺りは,もはやコスト優先の民間業者には任せておけないような気がする(と言っても,行政がきちんと対応してくれることも期待はできない)。

 個人的には,自宅の安全度を評価し,手放す勇気を持つ必要があると思われる。ただ,すでに擁壁崩壊の危険がある場合,売値はつかないと思われるが,事故による被害は免れるかもしれない。

 擁壁をどのように補強するのか,いろいろ考えるのだが,すでに土が移動を始めている状況で壁面にアンカーを打ち込むだけでは支えきれないのではないかと考える。ならば,壁面に沿って鉛直方向に長い杭を何本も打ち込むか,矢板と言われる波鉄板を打ち込んで土の流れを支えるようにしてはどうだろうか。擁壁に対する力を分散させることと,仮に擁壁が崩れてもその上の家屋や土が崩れないように支えることができるのではないかと考える。これは以前,河川の堤防の補強に提案した方法である(矢板方式の河川堤防はいいアイディア。どんどん打ち込んでみてはどうだろうか。 - jeyseni's diary 2021/8/27。結局,どの河川も修復は進んでいないと思われるが)。

 基礎工事をきちんとしたマンションであっても,40年も経つと外壁が外れたり設備が壊れたりと大規模補修が必要になる。補修費を積み立てて来たとしても,その後の資材や人件費の高騰により,十分な補修ができなくなっている。さらに住民も減り,補修費が集まらず,かといって立ち退き要求もできず,取り壊しもできない,という悪循環を招いているケースもある。正直,各地で今も建設されているタワーマンションなど,投資目的以外に永住しようという人は少ないのではないか。そしてここも40年後には寿命を迎える。建築業界のマッチポンプにしか見えない。

 かつて,アメリカのビルを日本の不動産企業が買収し,結果として焦げ付きを招いてどんどん撤退した歴史がある。現在は日本の不動産に中国資本が投資し,転売で利ざやを稼がせる構造になっている。建設業界はこれに加担しているだけであり,利益が出ないと判断した途端に手を引くタイミングが来ることは容易に予想される。ただ利用されているだけである。ここは,「無駄な建設をやめる」決断が必要なのではないか。観光業界およびその周辺業界も同じである。普通の日本を維持するだけでいいのではないか。成金に媚びを売るような国になってほしくないのである。