EV(電気自動車)の意義を考え直してみる。
乗車時に排気ガスを出さないので、大気汚染を減らす効果がある。動力音もモーターなのでエンジンよりも静かである。走っている瞬間を見ると環境に優しい乗り物といえる。
一方、現在のリチウムイオン電池だと十分な距離を乗るためには、電池容量を増やす必要があり、重量が増す。その分、車体の構造を丈夫にする必要があり、これも重量増につながる。車体重量が増えると、タイヤや車軸への負荷が増え、走行抵抗が増え、その分、電力の負担も大きくなる。タイヤへの負担も増え,溝の減り方も早くなる。さらに,クルマが走る道路にも負担が増える。現在の海のマイクロプラスチック汚染において,実はタイヤの摩耗粉の割合が50%を占めるという調査報告もある。
クルマが最もエネルギーを必要とするのは,発進するときである。大きな質量を速度0から動かすときにタイヤには大きなトルクを加える必要がある。EVのモーターは,速度0のときに最も大きなトルクを発生させることができるのが特徴で,この点でEVは発進しやすい。エンジンだと,タイヤにトルクを加えるためにはギア比を大きくして,エンジンをより速く回転させ,その回転力をギアで何倍にも増幅させる必要がある。でないとエンジンが停まってしまう。その分,排気ガスの量も使用する燃料の量も増える。
ところが,EVの発進時にはモーターに対して大量の電流を流す必要がある。これを担うのがバッテリーだが,バッテリーには高負荷が掛かることになる。これにより,バッテリーへの負担が繰り返し加わり,劣化の1つの原因となる。
現在主流のリチウムイオンバッテリーは,他のバッテリーに比べても重量当たりの出力は高いが,繰り返し使用の回数に限界がある。家電にも使われるリチウムイオンバッテリー同様,500回~1000回の充放電で寿命がくる。しかも,家電と違って残量ギリギリまで充電せずに走り続けてバッテリー切れになるような使い方は,まずしないだろう。たとえば半分まで使ったら,そこで満充電する,といった使い方をするのが普通だとすると,この充電の仕方もバッテリーの寿命を短くする。
さらに,リチウムイオンバッテリーは,現時点で効率的なリサイクルの方法が確立していない。EVでぶっちぎりに先行している中国では,寿命を迎えて取り外したリチウムイオンバッテリーが山積みになって放置されているという。国内で原料を調達できるから,わざわざコストを掛けてリサイクルする必要がないということになる。とんでもない話である。
また,バッテリーは自然放電する。テスラ車で10日間放置しておいたら,100kmほど走れるほどバッテリーが放電したという(EVのバッテリーの自然放電はエネルギーの無駄--本当に地球に優しいのか再検討すべき - jeyseni's diary 2026/3/6)。これも,ガソリンエンジン車などではまずありえない話である。
エンジンを作る技術は,短期間では確立できないし,総合的に燃費を良くしたり,排気ガスをよりクリーンにする技術も不可欠である。しかし,EVはシャシーにボディーをくっつけ,モーターとバッテリーをつなぎ,タイヤを付けて組み立てるだけで,ある程度の性能のクルマを作ることができる。エンジン製造のノウハウのない中国企業がこぞってEVに参入し,見た目はヨーロッパ風の高級車に似せたEV車を次々と発表した。地球温暖化防止をうたい文句に,中国,ドイツ,日本,そしてアメリカなどがEV普及に向けて補助金を出すことにより,初期費用を抑えて購入が可能になった。しかしその一次的な補助金が抑えられると,需要は一気に減った。アメリカではテスラ社が気炎を吐いているが,ユーザーは実質主義でハイブリッド車への乗り換えに動いている。
要は,鬼門となっているのがリチウムイオンバッテリーということになるかもしれない。安全性の点でも,EVや電動バイクなどで発火火災が起きたり,衝突による発火の例も報告されている。家電用の小型リチウムイオンバッテリーでも,落下時の衝撃で発火したり,充電中に発火したりする事故が相次いでいる。不用意にゴミに捨てたリチウムイオンバッテリーによる火災でゴミ焼却炉が破損して使えなくなる例も複数起きている。
リチウムイオンバッテリーの代替策として,固体バッテリー,あるいは半固体バッテリーの開発が進められている。ナトリウムイオンやリン酸鉄を使った小型バッテリーも市販され始めた。希少金属のリチウムに頼ることなく,しかも安全で,動作可能温度範囲も広い。ただしリチウムイオンバッテリーに比べてやや重いことと,価格がまだこなれていないことが普及まで至らない原因かもしれない。
日本は率先して,「2030年までに脱リチウムイオンバッテリーを実現する」と宣言すべきではないだろうか。蛍光灯の生産も2027年で終了させることになっている。
正直,現在のリチウムイオンバッテリーをリサイクルするのはコストに合わない。しかしその分,たとえばEVや電動バイクなどでリン酸鉄バッテリーを小型パッケージ化して標準化し,必要な個数を積載することで街中での使用は5個搭載して50km,長距離を走る場合も10個搭載して100km走り,そこで満充電のパッケージと差し替えられるような運用インフラを構築してはどうだろうか。これなら,敷設が面倒な充電ステーションを作らなくても,別のところで充電したパッケージをステーションに運び込むだけでどこでも運用が可能になる。バッテリーカセット方式にすいては,ホンダが2年も前に提案しているが,一向に普及しない(EVに対して否定的な理由は充電時間--バッテリーカセット交換式やタンデム式を支持 - jeyseni's diary 2024/1/1)。パナソニックは,アメリカでテスラ社向けの電池工場を建設しているが,日本国内のガラパゴスになってもいいから,カセット方式で国内のカーメーカーをまとめて標準化をしてほしい。