筆者は古い人間なので,電車に乗るときに「硬券」と呼ばれる厚手のボール紙のような切符を窓口で対面で購入し,改札口では係員が1枚ずつ「鋏(ハサミ)」を入れる時代を知っている。現在でも,記念切符として時々販売される。乗車した記念に,「使用済」ハンコを押してもらって持ち帰り,コレクションにしてきた時期もあった。
その後,切符の裏に黒い磁気層を設けた薄手の紙製切符が自動券売機で発売され,自動改札機で入構することができた。現在でも主流の切符方式であり,多くの自動改札機ではこの紙製切符を機械の中に引き込み,裏表の判断もしながらチェックする。紙を機械的に引き込むため,自動改札機の中で詰まったり,機械側の故障も多かった。
そこに登場したのが,電子チップを組み込んだプラスチックカードのSUICAである。自動改札機にタッチするだけで認識でき,自動改札機の機械的な故障が激減した。現在,電子改札専用の自動改札機もメジャーである。無線通信の規格がfericaである。
このferica通信機能をスマートフォンに組み込むことにより,スマホでSUICAカードの情報を読み込んだり,モバイルSUICAという形でスマホにSUICA/PASMO機能を組み込み,プラスチックカードの代わりにスマホでタッチすることで自動改札で認識できるようになった。
SUICA/PASMOが日本の独自技術であり,日本版電子身分証明証であるマイナンバーカードも,このferica機能を利用してスマホでの認証に使われている。
一方,プラスチックカードでの自動改札として海外で進んだのがクレジットカードによるタッチ決済である。SUICA/PASMOはカードにチャージして決済する方法であるのに対し,クレジットカードはチャージなしに月単位で決済されるため,手数が少ない。
日本でも,クレジットカードでのタッチ決済を電車の自動改札に採用する動きが出ている。まだまだ使える自動改札機が少ないが,地方鉄道ではSUICA/PASMO契約を解消して,クレジットカードによるタッチ決済に代える動きがある。手数料が安かったり,自動改札機の価格が安いなどの理由による。
このクレジットカードでのタッチ決済と,スマホのウォレット機能を連動させて,クレジットカードないしデビットカードでの決済をスマホのタッチで行うVISAタッチが進められている。関東では,JR以外の私鉄や地下鉄が順次採用し,乗り継ぎにも対応するようになってきた。
SUICAのタッチ決済に対応したスマートウオッチ(Apple ウオッチ)や,スマートリング(指輪)も使われている。いずれも,スマホとの連携で決済ができている。ただし,多くの人が左手にスマートウオッチをはめているため,身体を右にねじってタッチする必要があった。
さて,現在の筆者の乗車スタイルは,SUICA/PASMOカードでのタッチのみである。スマホへのモバイルSUICA/PASMOの搭載もしていない。当初は,JRがSUICA,私鉄がPASMOと使い分けなければならなかったが,現在はどちらでも共通に使える。PASMOでJRも利用できているので,不便ではないからである。
逆に,すべてスマホに機能を集約してしまうと,スマホを持ち忘れたり無くしたりした場合にあまりにも厄介なことになるからである。
VISAタッチも,電波マークの付いた複数のクレジットカードで対応できるようになっている。どれを電車乗車に使うかに迷ったりする。そこで,スマホのウオレット機能(google warretなど)にタッチ決済用のクレジットカードを登録しておけば,スマホを改札でタッチするだけで決済が完了する。今回,通常の利用区間外での乗車に,このスマホタッチによるVISAタッチを利用してみた。
最初はエラーが起きないようにと,スマホの画面をオンにして,ウオレットを開いた状態で入場。目的駅での出場時には,スマホの画面をオフの状態でタッチして,無事精算ができた。新しい仕組みは,ドキドキである。
関西・大阪万博2025では,大阪の地下鉄の一部の駅で顔認証によるノータッチパスが実現できた。その後,各地で顔認証の導入が進みつつある。
将来は顔認証が主流になるという予測もあるのだが,筆者は否定的である。パソコンやスマホの顔認証とは,セキュリティーのレベルが違うと思うのである。
世界共通ならクレジットカードだろうが,これは私企業がシステムを担っている。空港でのパスポートチェックに顔認証が採用されつつあるが,あくまでもパスポートの写真と本人の照合という形を取っている。SUICA/PASMOも私企業の開発したシステムだが,特許は公開されている。その仕組みを使ったマイナンバーカードが,日本では共通の個人認識システムとして使われ,保険証もマイナンバーカードが標準システムとして認識されている。筆者的にはマイナンバーカードで電車乗車するのが日本人としての誇りのような気もする。
しかし,インバウンドがここまで進むと,海外からの人々へのサービスとしてのクレジットカード決済が,当たり前なのかもしれない。ならば,顔認証でも良さそうなものだが,世界中の不特定多数の人々を含めた顔認証には無理があると考える。