地球には「食物連鎖」がある。土や海の中に広く拡散した栄養分を植物や微生物,プランクトンなどが摂取し,光合成や発酵などの化学合成を体内で行い,デンプンや脂肪,タンパク質などの栄養価の高い分子に組み立てていく。これを昆虫や両生類,爬虫類,鳥類,哺乳類が食べて身体を作っていく。さらにお互いに食料とすることで,生命を支えていく。
この過程を見ると,ごく薄く拡散した栄養分が,最終的に植物の実や種子,動物の身体という形に濃縮して「高栄養食品」に集約していっている様子が見える。自然の中では,こうした植物や動物が死んで土や海に還り,栄養分が循環する。
ところがこの食物連鎖の環の中に「人類」が入ってくると,状況は一転する。道具を使った狩や漁でゴッソリと食料を取得してしまう。やがて,食料を育てる農業や畜産業などへと発展し,さらにバイオテクノロジーで遺伝子操作まで行うようになる。まさにやりたい放題になっている。
近年,市街地に多数進出してきたクマ。もともとは山や里山に住み,木の実や果実,昆虫やハチミツを食べ,川で魚を獲って暮らしていた。ヒトとの棲み分けができていた。それほど,山や里山には食べ物が豊富にあったからである。
しかし,高度経済成長期以降,あるいは産業革命以降,人類の経済的繁栄の代償として二酸化炭素の排出量が増え,地球温暖化が止まらない状況になっている。食料の乱獲と大規模農業などで大量の食料を作って現時点では70億人もの人口に増え,なお増え続けている中,気候変動も激しくなり,もともとの自然の中にあった食物連鎖のバランスが完全に崩れつつある。
山に食料がなくなったクマは,食料を探して行動範囲を広げ,それが人里から街中にたまたま広がってしまった。そこには,人間が自分たちのために作ったおいしい食料がある。山でドングリを食べるのよりも,はるかに効率的に食べ物を得る場所を見つけたクマは,街中にも出てくるようになる。
人類は,武器を使ってクマに対峙するが,肉体的能力はクマの方がはるかに上である。防御用の毛皮も備えている。ヒトが素手で立ち向かうことはほとんど不可能である。すべてのヒトが武器を持っているわけではないので,易易と街中まで進出できるのである。
考えてみれば,ヒト以外で2本足で立ち上がれるのは,サルかクマぐらいである。サルによる被害は,日本だけでなく,アジア諸国でも見られる。場合によってはサルの方が優勢になっている場所もある。まさに「猿の惑星」化している。
同様に,次にやってくるのが「熊の惑星」かもしれない。ヒトを圧倒する力は,サルよりもクマの方がはるかに上である。ヒトが作った高栄養価の食料をクマが食べる。食物連鎖の頂点が変わるかもしれない。クマがヒトの代わりとなる「クマのヒト化」が起きる可能性はゼロではない。
クマが街中まで進出してきて,危ない,駆除しろ,逃げろ,だけでは,実は何の解決にもならない。いや,もはや解決の道はないのかもしれない。なにしろ,塀も防護ネットも乗り越えるし,川も渡る。「進撃の巨人」よりも厄介な存在である。