大型トレーラーが赤信号を見落とし,対向車とぶつかった拍子に反対車線を越えて向こう側の歩道に突っ込むという事故があり,女子高校生が巻き込まれて命を落とした(【続報】横断中に男女2人はねられ死傷 高校生とみられる女性死亡、男性重傷 容疑でトラックの男逮捕「赤信号に気付くのが遅れた」 千葉・成田の国道51号(千葉日報オンライン) - Yahoo!ニュース 2023/6/26)。
筆者も道を歩いていて,後ろから横を通り過ぎるトラックなどの大型車にはヒヤッとさせられることが多い。歩道と車道の間に街路樹やガードレールがあったとしても,大型車なら突っ込んでこないとも限らない。
今回の事故は,対向車線の大型車が斜めに突っ込んできた形になる。正面から突っ込まれたのか,後ろから突っ込まれたのかは分からないが,いずれにしても避けることも気がつくこともなかったかもしれない。
「注意一秒!怪我一生!」という標語がある。これは加害者側の話なのか,被害者側の話なのか,正直訳が分からなくなっている。確かに,歩行者が道を渡ろうとして,歩行者用信号機が青になったからといってすぐに歩き始めたとして,クルマが突っ込んでこないという保証はない。最近は,自転車も平気で突っ込んでくる。一瞬立ち止まって,左右を確認し,安全と確信してから歩き始めるべきである。でないと,ケガをしますよ,という標語だろう。
一方,加害者であるクルマの運転者の場合,1秒の間,注意したとしても,その間に20mも前に進んでしまう。歩行者側がいくら注意しても,避けられるものではない。そしてケガをするのは歩行者である。運転者ではない。
「事故は一瞬,償いは一生」というのが,運転者にはふさわしい。つまり,運転者は「一瞬たりとも油断してはならない」はずである。しかし,近年は携帯電話やスマホをクルマの中で使わないとも限らないし,カーナビで情報を見ることもある。カーナビの液晶パネルで映画やテレビを視聴する場合もある。一瞬どころか,油断のしっぱなしという可能性が高い。
さらに,トラックやバスなど,大型車の長距離ドライバーは,現在は過酷な労働環境に置かれてしまっている。睡眠不足,疲労などで,まともな判断ができなくなっている。
もっと問題なのは,業務用車のドライバーが,プロではなく“素人”になっていることである。
典型的なのが,タクシーの運転者である。タクシードライバーと言えば,かつてはどんな場所でもどんな裏道でも精通していたものだが,いまはカーナビに頼ったり,客から場所を聞いたりと,まことに頼りない。たとえば,中途退社した中年男性の就職先といえば限られてくる。アルバイトなら警備員,正規採用ならタクシー運転手というのがお決まりになってくる。営業車に必要な二種免許の取得を会社が負担するなどの特典も付いてくる。それでも人手不足はなくならないらしい。
大型バス,大型トラックの運転者に至っては,相当に過酷な運用をさせられる。軽井沢でのスキーバスの事故以来,改善が進められているが,まだまだ過酷である。仮にある程度経験を積んだとしても,乗員数や荷物の重さによって走行条件は変わる。ましてブレーキやタイヤの状態までリアルタイムに感知できるかどうかは疑問である。
クルマ側に,さまざまな安全走行装置や自動運転装置が付けられる時代になっているが,いずれもドライバーを守るための仕掛けであり,歩行者,対向車を守るための仕組みはどこにもない。
ブレーキとアクセルの踏み間違いを防ぐ装置があるが,一般に立体駐車場などでクルマが落ちないようにする目的が多いが,これでは歩行者は守れない。
まず「何があってもクルマを急停車させる機能」を考えるべきだろう。赤信号の検出,中央分離線の検出,そして対向車や周囲の歩行者情報も検知し,ただちに停止させることで巻き込み事故がなくなる。もちろんトレーラーなど,急ブレーキの掛け方によって車両が横転する危険もある。これも自動的に回避できるような機能を持たせるべきだろう。
先行車が急ブレーキをかければ,後ろのクルマが追突する事故の可能性はある。しかしそれでも,急ブレーキを掛ける機能がまず必要だと思うのである。後続車にもその機能があれば,衝撃は減らせるし,万一突っ込んでも乗員を守るための仕組みはあらかじめ搭載されている。まったく無関係の歩行者を巻き込むことの方が被害者にとっては悲惨である。
クルマもドライバーも不完全である。意識しなくてもクルマは凶器であることを,改めて言いたい。
しかし,完全自動運転車ばかりになると,つまらないだろうな,という気持ちもある。やはり,手放ししても勝手に停まるクルマは必要だろうと考える。