テレワークに取り組んでいるある製造業の会社が紹介されていた。
すごいな,と素直に思った。一般に,企業は企画部門,製造部門,営業部門,共通管理部門などから構成される。自宅にパソコンを持ち込めば,テレワークができるというものではない。部門ごとに対応が変わってくる。その中でも,製造部門は最もテレワークが難しい部門である。
機械を操作するモノづくりは,製造現場にある機械への部品の取り付け,取り外し,確認が必要で,現場に行くしかない。しかし,一般に工場は,作業者の密度はそれほど高くない。換気も配慮されている。作業環境そのものに感染拡大の可能性は低い。通勤をどう工夫するか,1週間のうちの出社日数などの問題である。
手作業でできるような最終の梱包作業は,場合によっては自宅でもできるかもしれない。それを会社から発送したり,受け取ったりする物流関連の作業は必要になってくる。これも,1週間の中で作業日を絞り込むことで,出社日数を減らせるかもしれない。
営業部門も,電話やメール,テレビ会議などである程度代替することもできるが,人と対面しなければ話が進まない場合もないわけではない。
これに対して,企画部門や共通部門は比較的テレワークに向いている。頭で考えることと,打ち合わせで話し合うこと,そして業務用のセキュリティーが必要なパソコンでの操作が必要になってくる。ここは,必要に応じてテレビ会議システムや,自宅から会社のパソコンを操作できるリモートデスクトップの仕組みを導入することで対応できる。全社員が均等にテレワークする環境を構築するのに費用がかかりすぎる,などという反対論は,そもそも業務改革や今回の新型コロナウイルスに真剣に取り組もうとしていない証拠である。
当初,数ヶ月で終息すると見られた今回の新型コロナウイルス感染は,残念ながら長期戦になってしまった。それでも,都市封鎖(ロックダウン)に踏み切った中国,アメリカ,イタリアなどは,ピークアウトの兆しが見えたという。半年という期間とそれぞれ10万人という犠牲者が必要だったが,戦いに勝利しつつあると言える。
これに対して,ロックダウンができない日本は,「人との接触を避ける」という掛け声だけで終息を目指している。クラスター対策チームの西浦博先生が出された人との接触を80%避けるという具体的な目標によって,具体的な行動の指針がわかりやすく示された。これは画期的なことである。しかし,完全テレワークにしても,80%超えがやっとで,週1〜3日のテレワークでは80%の目標に達しない。ましてや,通常勤務において「接触に気をつけて」も,せいぜい50%にしか減らせないという。
まず,いまだに企画部門が出社している会社は,社名を公表して告発すべきだろう。共通部門は,5人に1人が出社し,必要に応じて伝票作成などの作業をする体制を取るべきである。オフィスのパソコンを使う必要があれば,リモートデスクトップをセットすることである。営業部門も同様で,電話営業は自宅から,資料の確認はリモートデスクトップやメール,ファクスなどで対応し,外部とも電話,テレビ会議で80%の業務で人との接触を減らすことができる。
製造部門は,時間シフト,時短,工場の近くへの「単身赴任」などで対応するなど,この危機を機会にやり方を変えて実現できないかどうかをテストするのが,前向きな経営者の使命ではないだろうか。
文頭に例をあげた製造業でも,役員や社員はすべて反対したが,社長が先頭に立って取り組んだことで,社内の雰囲気が変わったという。トップの意欲しだいである。
我が家では,当初子供たちがスマホでLINE会議をし,引き続いてZoom会議を始めた。その後,パソコンを使ったZoom会議も始まった。スマホは手持ちで適当な場所に移動すれば通信ができるが,パソコンは机に置いてテレビ会議をする必要がある。背景にあまり生活色を出したくない,という気持ちも働き,部屋の片付けを始めた。何がきっかけになるかわからない。
あと半年はこの状況が続くのだろうか。80%の接触を避けて1ヶ月で終息させるという日本の作戦は,日本だけでしかできない方法だと思うが,いまだに本気で取り組めない中小経営者が日本の80%を占めるというのが,日本の弱みである。それをサポートするはずの政府や地方行政が,これまた及び腰である。医療崩壊すれば,いわば竹ヤリで艦砲射撃に立ち向かう旧日本軍のようなもので,日本全体が玉砕するのではないかと心配である。原爆が広島と長崎に落とされておしまい,というような生やさしいものではないのである。
テレワークや時短に取り組まない企業は,ある意味でブラック企業と言えるだろう。