jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

「エントロピー増大の法則」が成り立たない日本--ガラパゴス化が一層深化

NHKチコちゃんに叱られる」は,ネタに賛否が渦巻いている。どうも,物理学系,医学系の普段使わないワードで“煙に巻く”ネタが増えてきている気がする。

 「パンを焼くとおいしくなるのはなぜ?」というネタで,答えが「エントロピーの法則」とあった。たしかに,焼くとパンの外と中で温度差が生じ,水分が中心に集まり,これが均一になろうとしてパンの中に広がり,外はカリカリ,中はモッチリになる,という説明は,そのものはたぶん正しいのだろう。

 ただ,「おいしさ」を言うなら,パンの中のタンパク質が高温で変質するメイラード反応を答えにすべきだし,味だけでない「食感」や,サクッという音などの要素についても言及する必要があるように思われる。

 逆に,加熱することはエネルギーを注入していることになり,これによる反応についても「エントロピー増大の法則」を当てはめていいのかどうか,怪しい。逆に,芳香剤が拡散するのと同じであれば,パンを袋から出したままにすると水分が飛んで固くなる,という方がエントロピー増大の法則らしい現象である。

 物事を一定の状態に保つには,何らかの拘束するエネルギーが必要になる。人間の行動にとって,ルールはその1つだろう。平和で安定した状態を保つのに,法律というルールは欠かせない。法治国家という意味である。

 しかし世界全体を見ると,法が及ぶのは国の中だけでしかない。国境を越えると拡大する力が勝手に働くようである。戦争はこんなところから生じる。

 一方,日本やイギリス,台湾などの島国は,他国との明確な国境がなく,地理的に海岸線で移動が拘束されている。他国からの侵略も受けにくい。自国のルールを作れば,安定した状態を容易に保つことができる環境を持っている。江戸時代の鎖国政策によってジパングは「黄金の国」と空想されたし,戦後の高度経済成長期は「顔のない日本」と言われて恐れられた。世界から見ると非常に特異な国の位置づけになる。独自文化が育ち,まさにガラパゴス国家である。

 このガラパゴス化を一層促進してしまうのが,筆者もお世話になっている「日本語」である。日本人と日本語が強く結びついているため,当面の世界共通語である英語を使わなくても生きていけるし,逆に海外に出て行かない。さらに海外からの移民も容易には受け入れられない。

 フランスが,毅然としてフランス語を大事にし,街中の案内票にもフランス語以外の表記がないことは有名である。もちろん,ほとんどのフランス人は英語を理解できるし,話すこともできるが,あえて話さないし表記もしない。それでも海外に対してはオープンである。

 一方日本は,アメリカと付き合うときは英語,観光客が増えれば韓国語や中国語と,街中には各国の言葉で看板が作られるようになっている。しかし,多くの日本人は日本語しか話さない。海外に行くのも旅行だけで,海外で活躍しようなどという人はごく一部に限られている。

 正直,筆者は英語が好きだし,理解もできるし,話しもできるが,ネイティブにはなれなかったし,なろうとも思わなかった。英語はコミュニケーションのツールとしては必要と思ったが,あくまでも道具に過ぎず,自分自身ではなかった。海外旅行に行っても,留学に行っても,もちろん得るものは多かったが,自分の根っこが日本にあることを再認識して帰ってきたと思っている。海外でずいぶん世話になった異性もいたが,恋愛の対象にはなれなかった。

 それぞれの言語の範囲が,生活領域と合致している。日本語を話せるのは,日本人1億人のみだが,英語を話せるのはアメリカ人2億人+イギリス人7000万人だけでなく,+30億人ぐらいはいるだろう。中国語を話せるのは中国人14億人はいるとしても,他の国ではほぼゼロであり,共通語となることはないと思われる。

 地理的にも有利な日本は,日本国内に1億人という結構巨大なマーケットを持っており,自己完結型の社会が成り立ってきた。これに加えて,貿易でよい製品を海外に輸出して外貨を稼いできた。中国は自国に14億人という巨大市場があるため,仮に世界から切り離されてもまったく動じない。むしろ,資源を持っていることで,世界から切り離されないとたかを括っている面もある。

 日本という狭い領域に多くの人間が集まっているにも関わらず,世界に拡大して行かないのは,日本語という縛りと島国という縛りが大きい。それだけに,世界にモノも情報も発信できなくなっている現在,日本がガラパゴス化を一層深化しているように思える。

 せっかく小学生の頃から英語を学べるようになったのだから,義務教育の間は知識を貯め,高校では考える力を着け,世界全体を見たときの自分の活躍の場を想像して,次のステップとしての大学選びをしてほしい。正直,東京大学などを目指していては,将来のキャリアパスガラパゴス社会の中にしかなくなると思うのである。日本の若者にエントロピー増大の法則が当てはまりますように。