2020年7月30日朝,関東地方は緊急地震通報にかき乱された。多くの地震は,日本の陸地や近海が震源となるため,警報から数秒で揺れが来る。この数秒の間に身を守れるかどうかが生死の鍵を握るだけに,通報をためらっている余裕はない。大地震の恐れのあると判断された場合は,予断なく警報を発するべき話である。
警報から数秒間構えていたが,揺れが来なかった。ニュースを見ると,震源は日本のかなり南方の鳥島あたりだという。東日本大地震に伴う大津波の記憶が頭をよぎった。まだこの津波の可能性もあるのではないのか。警報は適切だったと感じていた。
この日の朝は,その直後に郡山市で改装中の飲食店がガス爆発と思われる爆発騒ぎがあり,地震の話題はかき消されてしまった。
その後,気象庁から緊急地震通報発令の空振りについての陳謝会見があった。
目に見える雲の動きや,地上レーダーのデータ,人工衛星からの温度や降雨状態のデータ,そしてこれらを計算して天気を予測するスーパーコンピュータを擁する「天気予報」ですら,正直「当てている」と感じたことがない。すでにAI技術を搭載して,過去の多くのデータを読み込んで解析を進めていると思われるが,「当たらないなぁ」と思うことの方が多いと感じている。
まして,地震は「予測できない」と科学者が断言したほど厄介な自然現象である。緊急地震通報は,唯一,地震の振動を検知した瞬間にシステムが警報発令の判断をして発せられるものである。野球で言えば,現在はまだ,2軍で特訓中の段階。将来的にも10割打者は難しいかもしれないが,4割打者ぐらいは目指していいのではないだろうか。筆者としては,コンピュータ,およびAIの進展によって,この打率が上がることを期待しているので,いまは陳謝段階ではなく,改善目標を持って臨んでほしいと思っている。
逆に,検知用センサ技術やその製造技術が,この製造業「冬の時代」の20年という空白の間に衰えてしまっていないかが心配である。筆者宅に導入した光ファイバ通信が大コケした件は報告したが,https://jeyseni.hatenablog.com/entry/2020/07/23/130523 大コケして10日になろうとしているのに,いまだに解決していない。技術側と契約側が互いにたらい回しにしているようであり,客のことをないがしろにしていると思われるのである。筆者が20世紀の後半20年にわたって仕事を通じて出会ってきたメーカーのエンジニアは,とにかく真剣で必死だったと感じていた。海外への技術流出,コピー商品とはいえ海外製品がはるかに性能を出し,また日本のお家芸とも思われていた精密加工技術すら手中に収めた東南アジアの国々に驚異を感じるとともに,日本製造業の凋落ぶりを感じていた。これをサービスでカバーするのが,新しい日本流だと思っていたが,クルマ業界も通信業界も,その精神に欠けているように思える。
東日本大震災からもう9年が経つ。阪神淡路大震災からはもう25年である。緊急地震通報が命を救った例はまだないかもしれないが,引き続き関係者の努力を期待したい。地震は,火山の爆発や津波と同じく,自然災害の中でも純粋に自然の力だけに依存しているので,純粋な科学で攻めることができると信じている。
逆に,大雨,洪水など,ここ10年で目立っている災害は,自然災害に加えて人災とも思える要素を色濃く含んでいる。線状降水帯など以前にはなかったような現象は,大気汚染との相関関係があると見ているし,洪水で一級河川の堤防が決壊する現象も,古くなったインフラ,管理の固定化,危険に対する意識の薄れ,人口密集,森林放置など,さまざまな人災の要素を含んでいるので,「発生の予測」が難しい。その分,「被害発生の予測」はできるのではないか。「緊急避難」についてのさまざまな表現問題があるにしても,被害を最小限に食い止めるための技術については,ドローンによる監視,AIによるリアルタイム予測など,すでに提案したとおりである。毎年起きている大雨,洪水の予測の経験も生かしながら,地震,火山の爆発,津波などの巨大災害の予測にもさらに積極的に取り組んでいただきたい。新型コロナウイルス禍との並行作業だが,国はこちらにも予算を組むべきだろう。