jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

2023年ノーベル経済学賞--労働市場の男女格差指摘が評価されたことを実践につなげるべき

2023年のノーベル経済学賞は,米ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディン(Claudia Goldin.)氏が受賞した。「労働市場における男女格差の主な要因を明らかにしたこと」が受賞理由だという。

 筆者は経済学についても無知識なのだが,需要と供給とか世界大不況のメカニズムとか,インフレ・デフレなどといったいわゆるマクロ経済領域ではなく,個別の課題解決につなげようとするミクロ経済領域のテーマと思われる。

 業績については,2023年ノーベル経済学賞はジェンダー格差の構造を経済史・経済学的アプローチしてきたゴールディン教授!|経済セミナー編集部 (note.com) などにまとめてあるのでぜひ参照いただきたい(という筆者もまだ研究内容の全容を把握しているわけではない)。

 筆者のざっくりした理解では,労働に対する評価が従事している時間の長さに比例するため,子育てや家事などを主に担ってきた女性の生涯賃金が男性より低いこと,職場内での賃金格差については「職場の柔軟性の欠如」が指摘されていること,だと捉えた。

 結局,経営の視点で見ると,会社に長時間拘束しやすい男性の方が使いやすく,習熟度も上げやすいことから,より高度な仕事を任せられ,その成果を評価すれば,長時間働ける男性の方により多くの賃金を払う傾向がある,というのは避けきれなかった事実なのだろう。これはまた,どの国でも同じ傾向にある。

 特に日本では,1945年の敗戦までは完全に男社会であり,戦後の男女同権運動によって徐々に女性に社会が開かれてきた。教育の機会均等,男女雇用平等などが進められて来ているが,子育てや家事に対する家庭および職場の認識がまだ十分ではないと言えるだろう。ゴールディン氏はインタビューで日本の子育て支援策について,「制度的には進んだものだが,企業側の認知度が低い」と指摘している。

 時給職場における格差はなくなってきていると思われる。アルバイトやパートなどの仕事は,「代替可能性の高い職業」でもあるからである。しかしここでも,女性が長時間働ける状況にはないことから,トータルでの収入には格差が出る可能性がある。

 時間で拘束されるサラリーマンという仕事形態は,経済発展期には適した方法だった。企業規模を拡大し,多くの社員を採用し,年功序列,定年までの雇用保証で社員を確保し,より高度な熟練を要する仕事を任せることでインセンティブを与えてきた。残業に対しても手当を出し,より長時間,会社に拘束することができた。男性にしかできない企業構造だった。

 2000年を過ぎて経済が停滞すると,多くの社員を抱えることは人件費という経費増になって経営を圧迫することから,社員数を減らし,アウトソーシング(外注)を増やし,さらに非正規雇用者を増やした。定年制も崩壊し,もちろん残業代などの諸手当もなくなった。これにより,男性にこだわる必要もなくなり,女性を雇用する機運は高まっている。

 しかし,そもそも企業規模が小さくなり,企業としての活力や社会影響力が小さくなり,雇用創出そのものも難しくなっている。その分をロボットやコンピュータによる自動化で切り抜けるという発想も日本には乏しく,一気に資本投資した中国が日本のモノづくり産業をほぼ全面的に奪ってしまった。今の日本に雇用を創出する企業という形態が存在しなくなった。

 企業に活力がなければ,そこに働く労働者にも勤労意欲がなくなり,会社への忠誠心も自己研鑽の意欲もなくなってしまうというマイナスのスパイラルになってしまう。かつて日本企業の中に存在した現場の改善活動といったものはまったく見られなくなった。

 「職場の柔軟性の欠如」という意味では,一時期流行ったフレックスタイム制やスライド勤務といった働きやすい環境がなくなってきているように思える。新型コロナウイルス禍で流行ったテレワーク(在宅勤務)も,コンピュータ系や通信系など,テレワークを推進できた企業は引き続き実施しているが,中途半端に始めた企業は結局元の出勤スタイルに戻してしまい,タイムカードでの時間縛りも含めて柔軟性を失ってきている。

 辞書から消えたという「企業戦士」「ビジネス戦士」という言葉も,日本の経済の停滞を物語っている。停滞した経済のパイを,必死にかじりついている人もいれば,詐欺,犯罪などで不法に着服する人も増えている。

 一方で政府は,まともに働いて収入が得られない分を,マネーゲームで補えと指導するようでは,労働意欲は減退するばかりである。その経済の停滞の中でさらに増税という「打ち出の小槌」で国民から収入を得ようとする政府に対して,国民が支持をできるだろうか。

 教育の無償化や子育て支援などのコソコソしたアイディアを出しては引っ込めているが,その原資が結局は国民の税金にある。その教育を担う教員の待遇が,長時間労働,低賃金では,まともな子供が育つ環境にはない。

 今回のノーベル経済学賞は,こういう経済のミクロな問題を改めて考えるいい機会にしてほしい。教育や福祉に関わる労働者の待遇を大幅に改善し,教育の無償化をし,その分は国民は消費税増税を容認するだろう。ただし,国民が支払った分を企業が預り金として納税するというシンプルな課税方式にしないと,企業が人件費を削減するために労働者を減らすなどというおかしな流れになってしまう。問題の本質から切り込む必要があるだろう。このためにも,女性によるきちんとした考証をされたゴールディン氏の受賞は大きな波紋を呼ぶことを期待したい。