jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

アニメがマンガの手法を展開したから、ヒトの脳が適応できなくなった説

かつてのマンガは、動きの表現に苦労して、さまざまな工夫を凝らしていた。動きを出すために,背景に放射状の線を引いて遠近感を出したり,コマの枠を飛び越えて主人公が前に出たり,その動きの方向に効果音の文字を変形させたり・・・などキリがない(筆者は実はそれらのテクニックについてまったくの無学無知である)。ほとんどのマンガが黒の線画で表現される。カラー化されるのはマンガ雑誌の表紙と巻頭の第1話ぐらい。単行本も含めて基本は黒の線画である(と思っているが,単行本はまったく手にしたこともないのでわからない)。

 影やグラデーションを作るためのテクニックとしてのカケアミやカケナワも,読む側からすると一瞬のイメージだが,作画者は1本1本同じ太さの線を同じ間隔で書き続けるという気の遠くなる作業を続ける。NHKの朝の連続小説『半分青い』で主人公のこの辺りの修行の様子があって,「自分にはできないな」と思った。背景のグラデーションは,今はスクリーントーンを指定するだけ,ということもあるだろうが,その他はいまでも手描きなのだと思う。

 こうした作画上の工夫により,読者は頭の中で「動き」や「音」を想像して自分の中で構築して,ストーリーを楽しむことができる。

 4コママンガでも同様で,パッと一気に見てしまえばそれまでだが,1コマずつ次のコマを予想しながら視線を移して行って,最後の4コマ目の「オチ」でクスッと笑う,というのが楽しみ方である(さすがに4コママンガには筆者も親しんできた)。3コマ目から4コマ目に移るところで,気持ちの「溜め」を置くことで,「オチ」の感動も膨らむというものである。

 このように,マンガは空間的にも時間的にも,読み方,感じ方を読者側が自分で選びながら楽しむことができる。中身はともかくとして,頭を使うという意味では,教材としてのいいアプローチを持っている。一時期,マンガで読む経済学や六法全書,歴史書,資格本なども流行った。

 マンガの歴史本は今でもベストセラーだと思う。キャラクターに共感できれば,記憶にも残る。いまだに子供のころに読んだマンガのキャラクターは鮮明に思い出すことができる。語呂合わせで覚えることも悪くはないが,ストーリーをきちんと理解しながら覚えるのに,マンガは悪くない選択である。現在で言うと,『はたらく細胞』が流行っているのがいい例である。

 ところが,これがアニメーション(アニメ)になると,筆者からすると否定的になる。マンガでは頭の中で想像で生み出されていた「動き」「音」が実際の動きと音で表現されるからである。アニメは,脳を働かせなくてもどんどん入ってきてしまう。脳がその時間と空間を制御することができない。

 また,同じ表現をするための情報量があまりにも多くなる。マンガだと見開き10コマぐらいで終わるストーリーの部分がアニメだと10数分にわたるかもしれない。1秒に12コマを制作するとして,7,200コマも必要になる。720倍の情報量である。しかも全カットがカラーになるのは当たり前。単純に,画面だけでさらに3倍の2160倍の情報量になる。これに音が加わると耳からの情報の相乗効果で1万倍ぐらいの情報量になるだろう。

 脳というのはまたよくできていて,情報量が多すぎるとその途中をふっ飛ばして理解する。首を回して景色を見ても,覚えているのは最初と最後だけで,途中の情報はほとんど覚えていない。だいたい1秒間に15コマ分の情報しか頭には残らない。そうすると,アニメの場合は,脳がすべての情報を処理していることになるはずだが,実は頭を働かせていない。無意識のうちに情報が入ってくるだけだからである。

 アニメで動きを表現するなら,主人公を背景の中で動かせばそれで十分なのだが,これに放射線状の背景や光の炸裂などのマンガっぽい効果を加えるものだから,どうもヒトの脳はついて行けなくなっているように思う。いや,筆者の脳がついて行っていないというべきかもしれない。筆者の頭では,ジブリ作品がやっとついて行ける程度で,ここのところの超ベストセラーアニメは予告を見た瞬間に拒絶反応を示している。

 おそらくテレビゲームも,筆者にとって同じような感覚なのだと思う。当初の「インベーダーゲーム」は,対戦場所が四角い枠の中に限られていた。レーシングカーのゲームも,自分の乗っているクルマからの景色なので想像の範囲だった。ところがスーパーマリオファイナルファンタジーあたりから,自分の頭がついて行けなくなった。自分の頭が想像できる世界や視点とはまったく異なっているからだろう。3Dが導入されたら,さらについて行けなくなりそうである。

 アナログ時間とデジタル時間 - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2021/7/9 を紹介したが,マンガはアナログ時間,アニメはぼおっと見ているときはアナログ時間,真剣に見ているアニメやゲームはデジタル時間なのかもしれない。筆者の脳にとっては,アナログ時間のマンガや動きの少なめのアニメ程度が心地よい。デジタル配信されている現在のアニメは,ついて行けないと思った次第である。賛否両論あるかとは思われるが,最近感じたことを記してみた。