jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

下水処理場が「処理した水」を流すように,福島原発は「処理した水」を流す点では,中国原発の「冷却高温水垂れ流し」よりは配慮していると考えられないか

筆者は言葉を扱う仕事をしているので,ちょっとした言葉の使い方が気になることが多い。さまざまな言い換えを提案しているのもそのためである。

 東京電力福島原子力発電所の冷却水を海洋放出する話では,「処理水」か「汚染水」か,という表現で揉めているように思える。

 たとえば,普通の下水処理場を考えてみよう。「処理場」と言う以上,「処理した水」を流している。固形の不純物を取り除き,病原性微生物などを塩素消毒する。定期的に水質検査をして重金属などが流出しないようにしている。

 福島原発の場合,メルトダウン後の炉心を冷却した水には確かにさまざまな放射性汚染物質が含まれている。ここからトリチウム以外の放射性物質を取り除いたのがALPS処理水である(「トリチウム」=放射性を持つ水素の同位体で,水に成りすましているので分離できない--ネーミングが悪いのかも - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2023/7/7に解説)。自然界のトリチウム濃度の1/7まで薄められている。きちんと処理された廃水だと考えられる。

 世界各地にある原発からは,トリチウムを含む冷却水が放出されている。福島原発の処理水の数百倍も高い濃度の冷却水が排出されている。ただ,放出先が海であり,そこで数百倍以上に薄められる形になる。冷却水の場合も,トリチウム以外の放射性物質は取り除いた処理水として放出されている。福島でも処理水を薄めて海洋放棄するという意味では同じ状態だと思うのである。

 原発内部の配管に穴が開いてしまうと,冷却水に放射性物質が大量に混じることになる。普段はトリチウム以外の放射性物質は出ない。ただ,海水を取り込んで炉心を冷却し,そのまま海洋放出しているだけである。トリチウム以外にも,温水を撒き散らすという意味では,漁業に対する影響が結構出ているはずである。

 福島のALPS処理水は,確かに元はメルトダウンした炉心を冷却して多くの放射性物質を含む「汚染水」だった。しかし,トリチウム以外は適切に除去された「処理した水」である。どの方法でも除去し切れないトリチウムの濃度は低い。タンクに溜めた水なので,温度は低い。温水を撒き散らす原発の冷却水よりは,おそらく漁業への影響は少ないと考えている。

 逆に,通常の原発の冷却水は,何の処理もされていないただの冷却水である。きちんと処理したALPS処理水の方が,より高度に管理されていると考えるのが科学的だと思う。

 下水処理場の例だけでなく,通常のクルマでも多くの汚染物質を撒き散らしている。それを空気中に放出することで薄められ,影響を減らしている。しかし,交通量の多い国道沿いではその排気ガスによって喘息などの人的被害が出た。だからといってクルマを使わないわけにはいかない。

 下水が川から海に放出され,それを海の生物が取り込む。かつて,生活排水でも中性洗剤のリン化合物が問題になった。石鹸を使おうという運動も盛んに行われたが,近年はまったく聞かなくなった。逆に,高濃度の洗剤や,柔軟剤,抗菌・除菌剤,トイレの洗浄剤,スクラブなどのマイクロカプセルが大量に流されている。処理しきれているのか,疑問が残る。

 AIPS処理水そのものには問題はないと思う。問題は,当面のタンクから放出される処理水の中に含まれるトリチウムの総量をきちんと計算し,どの程度薄められるのかを,きちんと計算することである。単純に濃度だけを問題にしていては,科学的とは言えない。それ以前に,「汚染水」との表現に対してきちんと抗議する必要はあると考える。