1970年の大阪万博のとき,筆者は中学生だった。米ソの宇宙開発が熱気を帯びていたころである。アメリカ館では,月の石が展示された。ソ連館も精力的な展示だった。万博のシンボルである太陽の塔を岡本太郎氏が建造した。テクノロジーが世界を牽引し,現代芸術が花開いた。世界中が技術優先で,公害も食糧問題もすべて解決できると思えるほど,米ソに続いて日本が技術開発をリードしてきた。日本で万博を開く意義があった。日本も,米ソに追い付こうというパワーがあった。日本の存在感を示す絶好のチャンスだった。
2025年の大阪万博に,筆者は何の意味も見いだせない。日本の独自技術もなく,日本の伝統芸術ももはや神秘性はなくなった。日本で万博を開催しても,日本の存在感をアピールできる素材は何もない。木造のリングを伝統的な日本の工法で作るにしても350億円もかける理由がわからない。
パビリオンの建設費も,1250億円から1850億円に5割増加。さらに日本館の建設に別途837億円が必要だという。
開催500日前の2023/11/29に,前売り券が発売され始めた。万博関係者,政府関係者以外に,今回の万博に行きたいと思う人がいるのだろうか。割安とはいえ,前売り券まで買って,何を見たいと思うのだろうか。何が得られるというのだろうか。
筆者は,東京オリンピック2020を中止すべきだと提案していた。このときは新型コロナウイルス感染症の第5波で,海外からの選手の来日や観客の参加なども含めて無理があった。結局は強行されたが,結局,経済効果はほとんどなく,日本の立場を揺るがす結果になった。
大阪万博こそ,中止にすべきイベントである。これを中止したとしても,開催したときの経済効果と対して変わらない。むしろ,リングやプレハブ作りのパビリオンなど,日本で行う意義がまったくない。
「諸事情により中止します」と誰も言おうとしない。すでに関係者に多大の金銭が支払われ,後戻りができない状態になっているのだろう。
予算を決めたら,これをすべて消化する。しかし今回は,予定より2倍以上のコストが掛かる。収入が2倍になるのならそれでも構わないが,むしろそれほど期待されず,すでにロシアを含む複数の国が参加を取りやめている現在,インバウンドの収入を期待することはできない。もちろん,日本人が喜んで集まるとも思えない。
コストに見合った儲けがないのなら,民間企業なら即事業中止である。これを国民の税金をつぎ込んでまで完遂する価値がどこにあるのだろうか。
開催時期が決まり,これに向けて「空飛ぶクルマ」が1つの目玉として一部の移動手段を担うと喧伝された。しかし,いまだにまともに飛べる製品もない。とても人を乗せて安心して飛べる代物とは思えない。特に筆者は乗りたいとも思わない。米軍が採用しているオスプレイすら,墜落事故が相次いでいる。とても民間会社が作った大型ドローンなど,危なくて乗れたものではない。
とすると,何が今回の万博の目玉なのだろうか。省エネルギーや再生可能エネルギーなど,見ても面白くも何ともないのではないか。
もはや,オリンピックも万博も,先進国が手を出すイベントではなくなっていると筆者は考える。