jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

線状降水帯,一級河川の堤防決壊,内水氾濫ーー水の災害は天災か人災か

2020年7月に入って,九州や南関東に大雨が降り続き,各地で水害がまた起きてしまった。原因となる降雨も,以前に比べると激しさを増しているため,高度成長期に全国に構築した防災インフラがそれに対応できなくなっているのだと思われる。抽象論になるが,言及してみたい。

 筆者が生まれ育った町は,関西のある都市で,町の中に2本の川が山から海に向けてほぼまっすぐに流れていた。そのうち1本の川は,当時の社会科の教科書では「天井川」と書かれていた,川底が市街地よりも高いところを流れる川だった。川を挟む幅数十mの地域は川の堤防と同じ高さにあったが,そこから市街地へは急な斜面でつながっていた。

 下水道が発達していたため,この川に町から流れ込む流路はなかった。逆に,川が増水した際に,その水を街中に拡散するための幅2m,深さ2mぐらいの流路が魚の骨のように左右に何本かあった。大雨が降ると,川の水は増え,街中の流路にも水が多く流れた。かなりの水の流れがあったという記憶がある。お年寄りが流されて1kmほど先で助かった,といった話もあった。

 つまり,大きな川の水量が増えたとき,それをうまく街中に拡散させて,本流が溢れないような工夫だったのではないかと想像している。その後,この地区でも大雨が降っているが,この川が氾濫したという話は聞いていない。

 これは,比較的斜面が強い町だからできたことかもしれない。川筋はそれほど長くなく,また山から海までほぼ一直線に整備されている。水路も,天井川からの水を分散させて十分流れるような傾斜に沿って拡散している。

 一方,ここ数年の河川氾濫は,いわゆる一級河川で起きている。信濃川最上川,今年は九州の球磨川が氾濫している。長い川で,長い距離をゆったりと流れる。感覚的には,山からの水量を常時一定の量を流している川である。通常は,水が少ないときの川の断面と,水が多い時の川の断面が大幅に異なり,大雨の場合でも十分な量の水を流すことができる設計だった。また,大きい川は支流からの流れ込みがあるというのも条件が違っている。さらに,流域が長いため,まっすぐに流れることもなく,曲がったり細くなったりした場所が決壊に見舞われる危険性も高くなる。

 これまでの大雨は,短時間に大量の雨が降る,というパターンだった。林業が廃れ,山が荒廃して,山肌の貯水能力がなくなり,雨水が河川に一斉に流れ込んであふれる,というパターンが比較的多かった。

 昨今の線状降水帯を伴う大雨は,同じ場所に丸1日から数日間,大量の雨が降り続くというパターンである。河川へ水が一気に流れ込み,これが何時間にもわたって続くために水かさが増し続け,堤防が決壊する被害につながっている。

 また,支流からの流れ込み部分では,流れ込めない分の水が逆流するバックフロー(バックウォーター現象)で周辺に浸水が起きる。

 さらに,流域にそれほど傾斜がないため,川の増水時に街中に水を逃がす水路も作れない。逆に,街中の水を川に流すための水路に川の増水した水が流れ込んであふれる内水氾濫で浸水が起きる。

 上流にダムを設置した場合,主に渇水時対策で通常はほぼ満水状態に保たれている。ここに大雨が降った場合,満水以上に水が貯まり,ダムが決壊する危険性が起きる。このために計画放水でダムの水を減らそうとするのだが,ここに大雨の水量が加わって,川の堤防の限界を超え,堤防決壊になるという皮肉な結果も起きてしまっている。

 人新世(アントロポセン,アントロポシーン)という言葉がある。人間の社会活動によって地球の生態系に影響が及ぶようになった時代という意味で,産業革命以後,あるいは原爆投下以降などの定義がある。二酸化炭素濃度の向上,オゾン層の破壊による紫外線量の増加,排ガスなどに含まれる微小粒子の増加などが指摘されている。筆者は「産業革命」説を基本的に支持している。そしてそこに絡むのが石炭燃料である。

 イギリスの産業革命は,石炭エネルギーがベースになっている。ロンドンの街が黒ずんでいるのは工場の煙のせいだとも言われている。次に世界の中心になった日本では,石油革命の時代ではあったが,実は半分は石炭火力発電によるものだった。

 そして現在の産業の中心は,中国である。中国のエネルギー源は国産の石炭である。日本の石炭火力発電が,世界中から非難されているが,日本にはそれを乗り越える技術があるのに対し,中国は技術もなければ改善するつもりもない。世界からの非難など,まったく聞かない。北京でPM2.5によるぜんそくなどが問題になっているが,お構いなしだ。

 ここからは勝手な想像だが,筆者は昨今の線状降水帯の原因がこの中国のPM2.5排出にあると見ている。

 日本と中国は遠いようで,実はものすごく近い。たとえば羽田から上海に向かうとすると,約4時間,帰りは約2時間40分である。飛行機は,ほぼ日本列島に沿って飛ぶ。この行程のうち2/3は,実は日本上空にいる。九州を離れて上海に着くのに,海の上の時間はわずか1時間である。そしてなによりも驚かされるのが,日本列島に沿って直線を延ばしたところに上海があるのである。

 中国の工業の中心は,この上海から重慶にかけての地域である。ここでエネルギー確保のために石炭がどんどん燃やされる。微粒子は偏西風に乗り,まっすぐ日本に向かう。この微粒子が連続的に供給されることが原因となって,日本上空に線状降水帯ができる。これまでは,偏西風に押されて形成されていた梅雨前線の場所に微粒子が流れ込み,地球温暖化で水温の上がった東シナ海でたっぷりと水分を得て,九州にぶつかるという構図である。北京周辺での微粒子は,韓国に流れ込んで,ここでも大雨を降らせてしまう。

 日本も実は,石炭エネルギー中心のときはこの微粒子をさんざん撒き散らしていた。しかし幸いなことに,日本で発生した微粒子はすべて太平洋上に流れ出てしまい,他国に被害を及ぼすことがなかったのである。

 日本の昨今の大雨は,世界の製造国になった中国のエネルギー確保策の結果ではないかと想像する。この一方で,これまでの平和的な降水パターンで作られた河川の防災対策の見直しがされていないことにも原因がある。

 山に近づけば山崩れ,里に近づけば川の氾濫,海に近づけば津波と,水に関する災害は想像をはるかに超えたパターンで急に押し寄せる。地震ならとりあえず数分耐えられれば呼吸はできるので逃げられる可能性もあるが,水の災害は一瞬にしてあるいはじわじわと迫ってくるうえ,呼吸ができなくなり,しかも数十分~数日も続く可能性がある。地震に強い家は,ある程度お金をかければできるが,水に強い家というのは基本的にはない。水が来れば浮かんでしまうし,水没すればすべての素材がダメージを受ける。「命を守る行動」を取ったとしても,戻る家はなくなってしまうのである。激甚災害に指定されようが,手にできるお金は数十万円しかないだろう。

 現在,筆者が住んでいる地域は,これまでのところ水害からは逃れられている。近くにある小川のような川も,大雨時にはかなり水量が増えるが,いまのところあふれるには至っていない。もっとも少し先にある巨大な調整池が過去の雨で満水になり,周辺にあふれたというから,油断はできない。先ほどのダムと同様,調整池の使い方によっては逆に氾濫を起こさないとも限らない。

 災害は,起きてみないと原因が見えてこない。雨の降り方のパターンも何十種類も必要である。頭で考えても,想像の域を出ない。これは本当にスパコン「富岳」の出番である。あるいは,もうそろそろ地球全体の仕事をやめてローカルの仕事としての「地球シミュレータ」(JAMSTEC)で,日本を強固な災害対策国にする時期なのではないだろうか。期待している。すると,大雨が予想されるどれぐらい前にダムの水を減らすか,しかもそれが渇水対策とも両立する程度に放水することも考慮できる。

 おそらく,「数十年に一度の大雨」をシミュレートして,災害に遭わない地域はほとんどないのではないかと想像する。日本が石炭火力の縮小を決め,次に中国のエネルギー近代化で恩を売って,自らに火の粉ならぬ微粒子が降り注がないような国際協力が必要である。新型コロナウイルスで,各県ごとの封じ込めはできなかった。すべての空気はつながっていることを,もう一度考える必要があるのではないだろうか。