筆者が腕時計を着けなくなってから,もう5年は経つだろうか。それまで,中学生で叔母からプレゼントされた腕時計からスタートして50年間,毎日のように左手に腕時計をして生活していた。
筆者はたぶん汗かきだと思う。歩くときには腕時計をしていたが,仕事場では腕から外して引き出しに入れていた。オフィスには掛け時計があるので,時間を見るのには事欠かない。パソコンが仕事の中心になってからは,画面の中にも時計がある。デジタル時計だと直感で時間をつかみにくいので,ユーティリティーソフトを使ってアナログの時計を表示させていた。常時表示させるために,わざわざタスクバーを2行分に拡大して時計の大きさを大きくしたりしていた。
腕時計で汗かきを気にしていたため,ステンレス製のバンドの腕時計をずっと使っていた。デジタル時計が登場してくると,安い腕時計は樹脂製のバンドだったが,汗をかいても時計ごと水洗いできるので便利に思っていた。本皮製のバンドの時計も一時使ったが,汗が皮に染み込んでしまい,臭くなってしまうのが悩みだった。
ケータイ電話を持つようになり,腕時計をどうしても着用しなければならないという状況は一変した。初期のケータイ電話は棒状で画面も小さかったが,キーもむき出しのため,ちょっとボタンに触れれば画面が表示され,そこには時刻が表示された。次の世代の折りたたみ式のケータイでは,折りたたんだ状態で時計を表示するために別の小さな時計が表側に埋め込まれていた。このデジタル時計も常時表示するので問題なかった。
ところが,スマートフォンになって事情が変わった。時計表示をするのにスマホの下や横の小さなボタンに触れて画面を表示させなければならなくなった。ポケットから取り出したときにすぐに時刻を見ることができなくなった。
スマホ以前の初期のガラケーは,とにかく軽量だった。70gぐらいが標準で,首からネックストラップで下げてもそれほど意識しない重さだった。ところが,二つ折りの頃からどんどん重くなってきた。ネックストラップでぶら下げていると,振り子のようにはずみがついてしまうので,長いネックストラップを作って,ケータイ本体はズボンのポケットに入れる方法を採っていた。まだ,ストラップホールが付いている頃である。
今のスマホは,150gから200g超まである。すでにストラップホールの付いている機種は皆無だろう。ストラップを付けている人も少ない。ケースにストラップホールがある場合でも,ストラップを付けている人はほとんどいない。首からネックストラップで下げるという使い方は想定されていないようだ。
ガラケーの時代は,液晶画面が小さく,ボディはプラスチック製というのが主流だった。したがって軽かった。スマホは画面が大きい。液晶パネルは,2枚のガラス板を張り合わせてあり,要はガラスの塊である。画面サイズが大きくなればなるほど重くなる。二つ折りケータイの時代は,軽量化のためにガラス板を貼り合わせたあとにさらに液晶面を研磨し,ガラス板の厚さを0.2mmぐらいまで薄くして軽量化する技術も使われていたほどである。
ところがスマホでは画面サイズが大きくなり,ガラスを研磨すればコストがかかりすぎるため,薄い強化ガラスで液晶パネルを製造して軽量化を図っている。しかし,液晶パネルが大きくなり,画素数が増えると,これを駆動する電力がどんどん増えてくる。これを供給するために今度はバッテリーの容量が大きくなる。バッテリー容量に比例してバッテリーのサイズも重さも重くなる。こうして,スマホはどんどん大きく重くなり,ストラップには対応しなくなってきたのである。
筆者の最初のスマホは,画面サイズが4.9インチと小さく,ストラップホールもついたモデルだった。落とすのが嫌なので,ハンドストラップを取り付けて使用していた。当時でも,ハンドストラップを付けて使っている人はまず見かけなかった。
そのうち,スマホの裏側に取り付けて指を入れて支えるスマホリングが登場した。スマホをテーブルの上に斜めに置くための支えとしても使えるため,ハンドストラップに代わる落下防止アクセサリーの主流になった。スマホが重いため,落とさないようにするにはうまい工夫だと思ったが,ポケットの出し入れの際に背中側のリングの出っ張りが気になって,筆者は使うことはなかった。
今は,ストラップホール付きのスマホケースを使い,ハンドストラップを付け,必要に応じてこのハンドストラップの先にネックストラップをつけて延長し,首からかけるようにしている。
さて,長々とスマホとネックストラップのことを書いたのだが,実は今,筆者の首にかかっているのが,100円ショップで購入した時計機能付きのストップウォッチである。
腕時計では汗をかく,スマホの時刻表示を出すのに手間がかかる,というわけで,時刻を知る方法をいろいろと考えていた。
以前,ナースウォッチを改造する話を書いた。ナースウォッチは,文字盤の方向が上下逆の時計を胸ポケットにクリップで留めて使用する。看護師の方の間で便利に使われているらしい。市販のナースウォッチは女性向けのかわいいデザインのものが多く,そのままでは使いにくかったので,チェーンを外し,細いヒモを付けて,ワイシャツの第3ボタンに留めて,ワイシャツの中に入れるというミニ懐中時計を作って2年ぐらい使っていた。これはなかなか便利で愛用していたのだが,夏場に汗をかき,たぶんこれが原因で時計が止まってしまった。その後,また購入することも考えているのだが,もう少し別のアプローチができないか考えていたのである。
実は,ストップウォッチが欲しかった。時間を計るのにいちいちスマホを開いて時計を用意し,ストップウォッチに切り替えて,というのが面倒だった。ストップウォッチを探してみたら,100円ショップにネックストラップで首から下げる丸っこい安っぽい製品があったので,試しに購入したのである。
このストップウォッチは,時計機能が付いているのがポイントである。普段は時計として首から下げておく。ナースウォッチと同様,首から下げると文字盤が上下逆になっており,すぐに時刻を読むことができる。ストップウォッチとしての使い方は,一般的なものである。
何より気に入ったのはその軽さである。おそらく15gぐらいしかない。社員カード程度の重さである。首からかけていても,動いてもほとんど意識しないぐらい軽い。振られて胸に当たっても痛くない。首から下げていることを忘れてしまうほどである。
家族からは,そんな安物を首から下げて格好が悪い,懐中時計を買ったら?と言われる。しかし,懐中時計は100g超コースである。首から下げて気にならないことはない。スーツやワイシャツなら胸ポケットがあるからいいが,Tシャツやポロシャツでは支えようがない。
とりあえず,ごまかしのために黒のポスターカラーを塗って少し安物っぽさを減らそうとしている。
新型コロナウイルス時代の今,本当はスマートウォッチに関心がある。心拍数や血圧を常時測定してスマホに送って記録ができるという。しかし,肝心の体温測定を明言している機種がないことと,スマートウォッチ=腕時計なので,腕時計嫌いになった筆者にはスマートウォッチを購入するという選択肢が現在はないのである。
さて,ネックストラップを首に直接かけるということを前提に,ネックストラップで体温測定できるような機器はどうだろう。外気にはさらされているが,15cmぐらいにわたって肌に触れているので,うまく測定する方法はあるのではないだろうか。このネックストラップに軽量のスマートウォッチを付ければ,筆者の理想の姿になるかなと思っている。