JST(科学技術振興機構)のプレスリリースページには,日本のサイエンス分野の最先端研究が紹介されている プレスリリース一覧|事業紹介|国立研究開発法人 科学技術振興機構。医学,理学(物理,化学,生物,バイオ,数学など),材料学,AIなどの先端技術研究分野である。論文発表が行われた研究成果である。
新しい知見を見るとワクワクする。将来,このような研究が実を結び,病気がなくなったり,作物の収量が上がったり,理想的な素材や新しいデバイスが登場することが期待される。
工学系の大学は,サイエンスに関わる分野としては材料系があるが,力学,熱学,流体学,電気などの従来分野は実学なだけに,サイエンスとは少し遠くなる。むしろ,特許につながるようなテーマが多いのではないかと思われる。また,企業との共同研究も多くなりがちである。
企業との共同研究の場合,ベースとなる特許技術は大学が,製品化への展開は企業が担う流れが多くなると考えられる。しかしベース技術に魅力がなければ企業と連携できない。
海外の大学の場合,特にバイオテクノロジー関係では,その収益が期待されることから大学教員自らがベンチャー企業を立ち上げて,二足のワラジで運営することも多い。医工関係技術や材料系,ロボット系,AI系も,ベンチャー起業で実用化を目指すケースが多いが,成功例は限られているように思える。研究と経営の両方の才能が必要と思われる。
モノづくりは,性能だけでなく,それを使う側のヒューマンインタフェース,使う側のモチベーションが必要である。逆に性能が大したことがなくても,デザインや色など見た目が優れているとか,使い心地がいいとか,軽いとか,本来の性能とは違う観点で評価が高まることが多い。そのあたりまでトータルで考えられるかどうかも,研究の評価に関わってくると思うのである。
近年,3Dプリンターの登場によって,これまで手作業でしか試作・再現できなかった形状を実現できるようになった。例えば「錯視」を引き起こすような立体形状を実現するのも簡単にできるようになった。それだけに,「製品」としての完成度が高い試作品が,手軽に作れるようになった。従来,PC上で立体イメージを表現していたものが,手に取って評価できる時代になった。
それだけに,手作り感満載の試作品で,特許も出願して,ライセンス供与しようとするケースは,今ひとつ賛同しがたい。確かに他の特許に触れなかったり,独自性は含んでいるのかもしれないが,その製品化にあたって顧客の視点が欠けているものが多い傾向がある気がする。
もう一つは,経済性の視点の欠如である。これは昔からそうである。特に医療分野ではごく一部の金持ちしか利用できないような薬や手法がまかり通っている。
工業分野やエネルギー分野では,国家の施策として官民学共同で進めた事業が,数十年経ったときに老朽化と技術継承の不十分さにより,崩壊の危機に直面している。
SDGs(持続可能な開発目標),ライフロングデザイン(廃棄まで考慮した設計)などの示唆が,長めの視点で研究・開発している大学には求められているはずなのだが,どうも目先のソリューションにのみ特化しているような気がしてならない。
企業の基礎研究所が解体され,大学の基礎研究部門に予算が回らないことも含めて,教育機関としての使命も果たせないような状況が続いている。大学はどこへ行くのか。せっかく「SDGs」といういいキーワードが世界的なムーブメントを起こしている現在,もう一度,システムの再設計をしてもいい時期に来ているような気がする。