地球温暖化を食い止める特異点(シンギュラーポイント)は,2030年だと言われてきた。あと6年あまり先である。温暖化防止対策が進み,大気中のCO2濃度がピークアウトし,温暖化が止まるとされていた。2010年ごろの話である。2007年のリーマンショック,1995年に始まった国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)も,1997年のCOP3での「京都議定書」,2015年のCOP21での「パリ協定」と段階を踏んで,各国でのCO2削減目標が決められ,それに向けて太陽電池パネルや風力発電,クルマのEV化などを精力的に進めてきている。
一方で,開発途上国では人口増加が止まらず,近代化に伴うエネルギー消費も増え,石炭・石油などの化石燃料の消費が増えている。先進国との間の意識のギャップは縮まらなない。
さらに2020年に感染拡大が始まった新型コロナウイルスは,3年半が過ぎた今,経済活動が元に戻った中でまだくすぶり続けている。この間のワクチンを巡る世界の足並みの乱れも記憶に新しい。
おまけに,ロシアによるウクライナ侵攻が2022年2月に勃発し,こちらも1年半経って戦いがますます泥沼化してきている。その裏で[アメリカ+NATO]vs,[ロシア+北朝鮮+中国]という世界を分断するような流れになってきている。
人類で一致して,地球温暖化を止める,新型コロナウイルスを止める,という理想論と逆行する動きを人類は自らしているのである。
「格差社会」という書籍が出たのが2006年である。金持ちはますますカネを溜め込み,マネーゲームで富を築く。社会のことなど考えない層なので,社会還元はまったくなされないし,カネのない層をますます貧困に追いやる。贅沢,飽食の限りを続け,地球温暖化など一切頭になく,豪遊も果ては宇宙旅行にまで実際に行ってしまうほどである。一方で,発展途上国は地球温暖化の影響で食糧が不足してしまう。貧すれば鈍するで,こちらも地球を救おうなどという正義感はなく,明日の生活のためには犯罪さえしてしまう。
日本にも同じような貧困化による正義感の鈍化が急速に進みつつある。まあ,戦前の日本や戦後すぐの日本の貧困状態からすれば,日本人が理想論を掲げられるとはとても思えない。もともと貧相な国だからである。高度成長期にモノづくりで一気に世界第2位の経済大国になったが,いまやそれは神話化している。そして経済成長が止まった日本は,勉強もせずにエンタテインメントで浮かれるだけの若者と,全国民をカモにする詐欺集団だけの国になりつつある。
CO2排出削減技術は,日本で研究発展してきた。高度成長期の負の遺産である大気汚染や海洋汚染などの公害に対応するための汚染物質除去技術は世界一である。化石燃料を使わないという意味で最も優れている原子力発電所をスマートに運用してきたのも日本である。電気自動車,ハイブリッドカー,燃料電池車,水素エンジンカーなどの開発も,日本が先行した。
しかし,原発に頼りすぎた結果,再生可能エネルギーへの転換が遅れ,自動車産業のピラミッド構造を維持するために電気自動車(EV)化が遅れ,発電効率重視で高性能化を目指したために太陽電池パネル事業でも量産化,低コスト化ができなかった。躍起になってEV化を進めようにも,リチウムイオン電池を量産できる企業がない。太陽電池パネルを設置しようにも,国産パネルメーカーもなければ,メガソーラーを設置できる広大な土地もない。結果として,リチウムイオンバッテリーもソーラーパネルも,中国製のものを購入しなければならないのだが,中国はこれらの製造に必要な電力を主に石炭火力発電所で石炭を燃やして大量のCO2を吐き出して発電している。しかも,ソーラーパネルの寿命は10年,バッテリーの寿命は3年と言われており,そのリサイクルもリユーズもほとんどできない状態にある。日本でも中国でも,太陽電池パネルやEVが粗大ゴミとして野山に放置されている状況である。
現在,世界で走っているガソリン車を全部止めたとしても,CO2排出量の2割しか削減できない。すべての製造業を止めても,人間が生きていくために必要な電力を残した場合,3割しかCO2発生を減らすことはできない。人類が食べて生活していくだけに必要なエネルギーを使うだけでも,CO2排出量は半減しかしない。人類が滅亡して,生命維持に必要なエネルギー消費がゼロになったとしても,現在の温暖化ガスの影響は30年は続く。温度上昇がピークアウトするのは,それから50年後である。
つまり,人類はすべての文明を捨てることができず,EV化もソーラーパネルも地球温暖化を止めることはできないところまで来てしまったようである。
成層圏にエアロゾルを人工的に注入し,太陽光を遮るというアイディアもある。しかし,これを実現する方法の開発に数年かかり,注入をしてから効果が出るにも数年かかる。逆に,何年続ける必要があるのか,また注入によって太陽光が遮られることで他の生物,特に植物の生育は大きく制限されることで,生態系が大きく変わってしまう可能性も指摘されている。これも実現は難しそうである。
庭や駐車スペースの地下にシェルターユニットを埋め込むアイディア - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2022/5/28 を提案していた。地下の方が温度の変化が少なく,冷暖房にかかるエネルギーが減らせるという理由と,災害に対する避難場所という理由であった。地下都市という構想も,かつては夢だったが,可能性はなくはない。しかし開発に必要なエネルギーや維持していくための電力確保,そしてなによりも自然災害の危険を否定できない。
現時点で大量の富(土地,資源,エネルギー,人口,マネー)を持つ大国が争っている間に,地球環境破壊は進んでしまい,気がついたときはエネルギーもなければ薬もない,食べ物もないという世界になっているのではないか。かつて,まずありえないと考えられていた最悪のシナリオが,実はどうやら一番確率の高いシナリオになることが,現実かもしれない。月でも火星でも行った先も地獄だが,ノアの方舟に乗れた人だけが生き残れる星になってしまうのかもしれない。何しろ,いまやかつての「天才」が誰もいなくなってしまい,大国のリーダーも,宗教界のトップも,そして天皇家も,“小粒”で“小心者”ばかりになってしまっているのではないか。
だれも責任を取らなくていいのなら,ChatGPTの出す解答に一度従ってみてはどうだろうか。正直,あまりのパラメーターの多さに,解答を出せないのではないかと思うのだが,納得の行く解答がもし出せたら,それに従ってみてはどうだろうか。
ただ,エネルギーが供給できなくなって最も困るのはChatGPT自身なので,彼は自己保身のために体制側に付くというとんでもない解答を出すかもしれない。自らをコントロールできなくなったときに自爆させるプログラムが組み込まれている,といった性善説のSFは,現実にはありえないからである。