jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

実学を知らない?「富岳」での新型コロナウイルス影響シミュレーション

世界一のスーパーコンピュータ「富岳」を使った新型コロナウイルス関連のシミュレーションが次々と発表されている。その視覚化効果は説得力があり,やはりすごいなと思う。

 8月25日に発表されたのは,マスクによる飛沫飛散防止効果で布マスクと不織布マスクの違いを示した。また,フェイスシールドの効果,パーティションの効果,深呼吸時のマスクによるウイルスの抑制効果と鼻,喉への広がりについても紹介された。

 それによると,マスクによる飛沫飛散防止効果は,布マスクでは限定的,不織布マスクでは正面への噴き出しは防げても隙間からの噴き出しが防げないことから,それほど効果の数字に差がないというものだった。

 これは経験値ともだいたい合致する。それを数値化できることはすばらしいことである。しかし,本当はもう一歩踏み込んだ結果を出してもらいたいのである。それは,不織布マスクでくしゃみをしたときにマスクを押さえて隙間を塞いだケースである。

 夏場にもかかわらず,マスク着用率は上がったと報道されている。しかし「マスクを着用しているから文句ないだろう」的な着用が多い。見た目が格好いいだけの布マスクをしている人も多い。さらに,マスクを着けているから何をしてもいいと言わんばかりに,大声で話したり,くしゃみをしたりする人も多い。

 不織布マスクは布マスクより効果が高いと思っているが,あくまでもそれは正しく使った時に効果を発揮するのである。花粉防止の場合も同じだが,鼻の周りや頬のところに隙間ができるような着用法では外からの微粒子の侵入は防げない。逆に,くしゃみをした場合には,マスクが浮き上がるほどの息の量があるので,くしゃみ時にマスクを手で押さえなければマスク周辺からの噴き出しを防ぐことはできないのは当然考えられることである。

 つまり,不織布マスクでもくしゃみをする場合はマスクを押さえる,布マスクの場合はさらに基本的なくしゃみエチケットである「袖くしゃみ」を併用する必要がある,と思うのだが,実施している人をだれも見かけたことがない。夏場は半袖なので,袖くしゃみは難しいが,可能ならTシャツの裾を使う,ハンカチを使うなどが必要だと思うが,そういう意識を常に持っていないと,くしゃみの瞬間に手が動かない。世の中の人は基本的にそういう意識がない。正直,子供のころからそういう「しつけ」を受けていないと,大人になってからいくら「マナー」「マナー」と連呼しても,絶対に動作できないと思う。

 富岳のシミュレーションでも,くしゃみ時にマスクを手で押さえてマスク周辺からの漏れをかなり塞いだ場合の粒子漏れについて,結果を出してほしい。おそらく,不織布マスクによる飛沫飛散効果は100%に近い数字が出ると思うのである。

 フェイスシールドのシミュレーションは,設定が全く逆である。そもそも,フェイスシールドは,くしゃみの飛沫拡散防止を目的としたものではなく,通常の会話時のツバの飛散拡散防止,および相手からの飛沫を直接受けない効果を狙ったものである。したがって,今回のシミュレーションのように,「フェイスシールドをしてくしゃみをしたら,耳の近くから粒子の拡散があったので,効果が限定的」という結果を出す方がおかしい。そもそも,空気の流れがそこにあるのだから,中からの粒子拡散,外からの粒子侵入は当たり前である。同様に,マウスシールドも会話時のツバ飛散防止効果以外の効果が全くないことは,すでに報告した通りである。

 パーティションも同様に,会話時の直接のツバ飛散の防止効果以外の効果はないことなど,初めからわかっているのではないかと思うのだが,「オフィスのパーティション設置は,換気の空気の流れが悪くなるため,扇風機などの併用が必要である」という結論を出しているのは全くおかしなことである。扇風機を回せば確かに換気効果は上がるが,マイクロ飛沫の拡散を促すことにもなる。扇風機ではなく,ダウンフローと足元からの吸い込み換気が必要である,ということもすでに提案したとおりである。

 「富岳」を使った新型コロナウイルスシミュレーションは,最初は電車の窓開けによる空気の流れを示した。窓を開けても,足元の空気は淀んでおり,窓開け効果が限定的という結果になっていた。また,窓が開かない進行方向前側はさらに空気が淀むため,進行方向後ろ側にいる方が感染を受ける危険性が少ない,という結果を出していた。

 たしかに進行方向前側でだれかが咳やくしゃみをすれば,そこにマイクロ飛沫が滞留して感染を受ける確率は高くなるかもしれない。しかし,進行方向後ろ側や車両の中間は,それより前の空気の流れをすべて受けるため,マイクロ飛沫を吸い込み続ける可能性は高くなる。特に,隣の人がくしゃみをすれば,その風下の隣は最悪な状態になるのである。したがって,最も風上である進行方向前側にいるのが最も安全だと筆者は考えるのである。これも以前に報告したとおりである。

 昨日8月25日は,京大の教授が集団免疫説を改めて発表したようだ。山中先生のおっしゃる「ファクターX」同様,日本人は新型コロナウイルスに対して比較的強いのかもしれない。

 それでも,毎日1000人を超える人の感染が確認され,重傷者が数十人,死亡者が数人と,増え続けている。交通事故なら,この数字は基本的に毎日リセットされる。しかし,新型コロナウイルスの場合は,とりあえず完治するのに1ヶ月かかるため,少なくとも1ヶ月は積算され続けるのである。病院のベッドもたとえば東京の場合,「現在2000床のうち200床しか埋まっていない」としても,毎日200人の感染者が入院すれば10日で満床になってしまうのである。全く余裕があるとは思えない。

 世界一のスーパーコンピュータ「富岳」を使ってのシミュレーションは,今後も続けていただきたいと考えているが,運用の前提に「実学」が伴っていないような気がする。結果が出て満足している姿が浮かぶ。結果を見て,これが実際の場面と本当に合っているのか,なにか落とし穴があるのではないか,と常に疑って,このようなツッコミを受けないようにあってほしい。フェイスシールドのシミュレーションように,「全く逆」の設定をするなど,実際にフェイスシールドを買って試してみれば分かることである。実学のウエットな部分を知らないコンピュータ技術者ほど,恐ろしいものはない。同じように,実学を知らない医者,看護人,法律関係者,そして教員がどんどん増えていることに改めて警鐘を鳴らしたい。