筆者が仕事をいただいている職場では,仕事時間にはスマートフォンの電源を切るように指導されている。お客様情報の漏洩の恐れがあるからで,仕事中のメモ書きも退出時にはシュレッダーで処分することが求められている。
もちろん,ボディーチェックをされるわけでもなく,情報を持ち出そうと思えばいくらでも持ち出せる。そこは契約におけるコンプライアンスであり,遵守することが当然であると思うのだが,守らない人がゼロではない。
大学入試共通テストにおける情報漏えい事件についても,試験会場へのスマホ持ち込みが,電源OFFの状態で許されている,というところで,セキュリティー管理上の問題がなかったとは言えない。
試験会場へのスマホの持ち込みは,緊急事態が起きたときの混乱を避けるためだとされている。試験中に地震が起きて家と連絡を取る,といった事態が起きた場合に,スマホをすべて持ち込み禁止にすると混乱が起きるというのが理由である。しかし,やはりこの対応は甘かったのではないだろうか。
正直言えば,勤め先でもスマホは取り上げて管理すべきだと思うのである。勤め先では,雇用契約において解雇の要件となり,抑止力はそれなりに強い。契約違反をすれば雇用関係を解消させられ,収入がなくなるからである。
しかし,試験会場の場合,個人としての特定も限界がある。受験票の捏造なども行われないとは限らない。まして,試験問題の持ち出しや写真撮影など,今のIT技術ならいくらでもできる時代に,あまりにも管理が甘かったのではないだろうか。
証言によると,スマホを袖の中に隠し,手で顔を覆いながら撮影したという。その後の送信,メール発信などは机の陰で行ったという。コロナ禍で隣との間隔が大きくなり,監督官の人数も巡回も少なくなったという盲点を突かれたともいう。
しかし,スマホだけでなく,隠しカメラも安価で販売されているし,本人だけでなく外部から機器を操作することもできる時代である。入り口ですべての電子機器を取り上げる必要があるのではないか。
海外の某ロジスティクス倉庫では,入館時に時計を含めてすべての電子機器を預け,退館時には完全ボディーチェックをされる。商品の持ち出しを厳重に管理するためである。個人としての資質など,まったく信頼されていない。さすがに海外企業であり,ドライである。大学入試には,それほどのドライさが必要なのではないのか。
筆者は,スマホを預けることも,ボディーチェックされることも,まったく厭わない。仕事場でのスマホ電源OFFも,仕事始め以来完全に実行している。カンニングや不正などを行う気持ちがわからない。それは犯罪である。
しかし,情報を確認するために,ペン型のスパイカメラを入手して検証したことはある。ブラック企業におけるハラスメントをICレコーダーで録音して告発することも,薦められている。さらに,あおり運転などの証拠を残すためのドライブレコーダーは,もはや常識になってきている。IT技術はそこまでもう来ているのである。
試験会場という,公平が求められる場では,個人の権利よりも優先されるべきである。でないと,真剣に取り組んできたほかの受験生がこの国のシステムに対してすべて疑問を持ってしまうことになる。大学に対しても信頼を置かなくなる。これは日本の将来にとって,不幸なことである。