スマホを使い始めてそろそろ10年になる。胸ポケットに収まるギリギリのサイズまで画面は大きくなり,使用時間を3日ぐらいまで延ばすために大型のバッテリーが搭載され,当初のスマホよりずいぶん重たくなった。文字入力をするにも,片手で持ったまま親指だけで入力,となかなか行かなくなり,両手で取り扱うことが増えた。
最初に使ったモデルは5.1インチだった。スマホとしては軽く,片手で操作できるのが快適だった。当時,画面周辺の「額縁」と呼ばれる部分は幅が5mmほどあった。多少は外形よりも画面が小さくなるが,特に不自由には思っていなかった。パソコン用モニターでは,額縁が狭いモデルが大半を占める。画面サイズはギリギリまで大きい方が使いやすいからである。
現在使っているモデルは5.5インチ。額縁は3mmほどあるが,最初のモデルに比べて丸みがある。右側のボタン操作をする際,画面に触れてしまうこともある。ということで,筆者は,スマホ画面の額縁賛成派である。
ところが,世の中には額縁がほとんどないモデルや,側面まで画面が回り込んでいるモデルがある。側面まで画面にできるのは,有機ELモデルである。ここはタッチにも反応するのだが,どういうメリットがあるのだろうか。たしかに画面サイズは本体サイズとほぼ同じになるが,画面が指で隠れてしまったり,誤操作にもつながる。また,側面まで画面が回り込んだ場合,画面の左右が歪んで見えてしまう。
自撮り棒で本体の側面をバネの力で挟むモデルが多いが,スマホの側面の強度が十分あるのかどうかいつも心配で,ほとんど使ったことがない。どう見ても,本体のすぐ下にディスプレイの周辺に付けられたフレキシブル配線板が巻き込まれており,それに多少なりとも歪が加わるのではないかと心配なのである。実際,画素数分の細かい配線を印刷したフレキシブル配線板がディスプレイの液晶パネルに接続されているので,そこに力は加えたくない。
タブレットの場合はある程度重さもあるから,両手で操作することになる。入力操作をする場合は,片手で支えなければならず,必然的に親指を画面側にも回して支えることになる。額縁は1cmぐらいあってもおかしくないが,これもどんどん狭額縁化している。
パソコン・モニターの狭額縁も流行りだが,これも1cmぐらいの幅があってほしい。個人的には,この額縁の部分に付箋を貼って仕事の予定の整理をしたいからである。しかし,狭額縁でしかも表面をザラッとした加工にしてあるため,付箋がすぐに外れてしまう。まあ,これは個人の好みもあるが。
限界の額縁0mm,さらに回り込みまで最初に実現させたのは,台湾の液晶パネルメーカーであり,韓国の液晶パネルメーカーの有機ELディスプレイだった。特に有機ELパネルは日本が先行していたにも関わらず,量産ラインを作るだけの投資決定ができなかった。その前の液晶パネルの大型工場での投資で勝てなかったからでもある。有機ELを使った折りたたみ式のスマホも,コンセプトは日本やヨーロッパでは出ていたが,製品化までできたのは韓国メーカーだけだった。
スマホの次に,メタバース用としていよいよ標準的になりそうなのがゴーグルやグラス(メガネ)だが,これも日本メーカーはほぼ手出しができない。さまざまなパネルを試作して検討している台湾,韓国,中国,そしてアメリカのメーカーに対し,コンセプトモデルしか提案できないのが日本である。なにしろ,実験しようにも自分たちの自由になるパネルが手元にまったくないからである。
数年後には,メタバースがパラレルワールドとして一気に花開くだろう。アニメやゲームに慣れた若い世代は,一気にメタバースに入り込んでしまい,実業としての農水生産物に関わる若者と二分してしまうかもしれない。
筆者は,その中間としてのAR(拡張現実)でリアルとバーチャルのいいところ取りをしたビジネスモデルが性に合っているように思っている。ただ,メタバースビジネスに比べれば極めてマイナーとなるのだろう。そこでは,リアルとバーチャルを同時に表現できるARグラスがポイントとなると思っている。
ゲームに特化したゴーグルをアメリカが,ARグラスを中国が,現時点では製品化されている。メタバースのコンテンツが足りないと,アメリカの企業を買収しようという動きもある。何か「思想」というものを感じない。筆者は,ARグラスを用いた現実味のあるデジタル空間での情報提供の形をイメージしている。そろそろ実験に入りたい段階なのだが,中国企業が正直,信頼ができないのも事実である。
ARグラスとスマホは相性がいい。スマホをサブディスプレイとして使えるからである。メールを発信したり,検索したりするのに,手でスマホを操作し,結果をARグラスに表示する,といった連携が可能だからである。ゴーグルだと,完全にメタバース空間に入らなければならず,そのインタフェースは非常にまどろっこしいものになると考えるからである。そのとき,スマホはフリック入力ができるだけの大きさがあればよく,片手で操作できることを考えれば,筆者が最初に手にした5.1型程度のスマホで十分ということになるのではないかと考えている。ポケットにも入りにくい5.5型はもう不要かなと思ったりするのである。