jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

NHKは「公共放送の使命」が何たるかを再認識し,報道内容,予算,情報ネットワークを再構築することが必要--「インフォメーションヘルス」に思う

NHK受信料問題の解決法は「公共メディア料金」だ インフォメーションヘルスをどう解決するか (msn.com) 2023/1/23。東洋経済オンラインに載っていた境 治氏のオピニオンをたまたま読んだ。筆者は,他人の言うことを基本的に肯定も否定もしない立場なのだが,久しぶりになるほどと思える意見だった。

 筆者が賛同するのは,NHK受信料を「公共メディア料金」として地域の公共民放のネットワーク構築支援にも使う,というアイディアでのキーワード提示と,「インフォメーションヘルス」というキーワードを肯定して使っていることである。

 メディア人の1つの役割は,言葉という武器を使って状況を定義することだと考える。この2つのキーワードは,テレビや新聞などのマスメディアにとって最後の盾になると考えられるからである。1人称で情報提供すると、それは個人の思想になり情報ではなくなる - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2023/1/8 と,筆者もコメントしている。元マスメディア人として,また現役の旧メディア編集者として,情報を精査して発信することが使命だと考えているからである。

 一方で,最近聞いたキーワードとして,NHK受信料は「強制的サブスク」だ,という言葉があった。このキーワードも,言い得て妙だと思うのだが,まったく建設的ではない点に問題がある。まるで,すべてのサブスクリプションは正義であり,これを強制するやり方が間違いだ,と言っているように聞こえるからである。

 一般ユーザーにとって,一定金額を支払えば無制限にサービスを受けられるサブスクは,望ましいサービス形態に見える。しかし,これは基本的には賭博の構造と同じである。サブスクを運営する組織が胴元であり,コンテンツを提供するアーティストや店舗がショバ代を払って登録する。このサブスク代金とショバ代が原資となるが,コンテンツ提供側へのペイは,商品代金だけなので,結局はマイナスになる。楽曲などのアーティストにとっては,従来のCD制作などに比べて1/10以下の収入しか得られないこともある(もっとも,売れない場合は制作費や在庫管理などの経費がマイナスになる分,ネット配信だと経費が抑えられるというメリットもあると考えられる)。

 ニュースや報道に,より正確さを追究するのが公共放送としてのNHKの使命だと考えると,その正確さを保証するためのコストに対して受信料を支払う,という構造は正しいと思う。災害報道を1秒でも早く正確に届けるには,監視(情報)カメラの設置などのハードウエアだけでなく,全国に人員を配備し,常時動ける態勢を構築するための人件費というソフトウエアも必要になる。

 しかし,災害現場に最も近いのは,最終的には被害を受ける人である。災害現場に報道関係者が常にいることはない。すると,被害者やその周辺の人から発信された個人による情報が一次情報となり,報道機関による情報提供が二次情報になってしまう。そのときに情報を精査して発信しているかと言えば,被害者やその周辺の人にインタビューした内容を伝えるにとどまっている。「ボーンという音がして火花が上がった」とか「警察が来て物々しい雰囲気だった」とか,そんな感想を伝えられても何の意味もない。さらに,一次情報を持つ人から情報をカネで買い取って報道する,といった姿勢も,もはや旧態依然とした報道スタイルとしか見えない。また,現場の最前線で対応している自衛隊や医療関係者にとって,報道機関はジャマ以外の何者でもない。

 ドラマでは,災害現場写真を撮影して報道賞を受けたカメラマンが,実はその災害を引き起こした張本人だった,というシナリオがときどき使われる。報道関係者が事件の現場にいることなど,基本的にはありえないからだ。

 それなら,現場にいた人の発信した写真や動画が最も信頼できる一次情報なのだが,これを意図的に古い写真をアップロードしたり,さらには加工したフェイク情報として発信する人が急速に増えている。匿名でのアップロードが可能な状況で,これを悪用するという愚かな行動を取ってしまうのは,実に情けないのだが,これが現在の現実である。

 NHKの民放化や,タレントによるMC,エンタテインメント番組など,NHKへの苦言はこれまでも何度も発信している(数が多すぎて,引用できないほどである)。もう一度,「公共放送」の意義を確認し,やるべきことをどう実現するか,そのために必要な予算はどの程度かを精査すべきだろう。大本営発表のような報道統制は問題だが,本当に必要な報道のためなら,運営費を変な形で国民から強制的に取るのではなく,きちんと「公共放送税」として収めてもらい,国会の決議を経て獲得した方がいいのではないか。事件報道など,どうでもいい。事故情報を公共交通機関(JR,私鉄,航空会社,道路公団)から得て報道し,地域に影響の及ぶ事件は警察・消防から,災害に関する情報は自衛隊から,それぞれ直のネットワークで情報を入手して淡々と報道することで,正確な情報発信ができ,これを国民がどう判断するかは,国民に任せればいい。

 かつて,日本経済新聞は大蔵省(現・財務省)の御用新聞だと言われた。官僚による情報操作こそあってはならないし,この態勢にもメスを入れなければならないが,国民の生活や命を守るというのなら,「正確な情報を正確なルートで発信する仕組み」をもう一度考え直す必要があると思う。NHKの経営,資金母体,そして情報ルートを整備し直すことを,筆者は提案したい(もちろん筆者は,特定の政党に関わっているわけでもなく,否定もしているわけではないが,なんだか政治自身もおかしな国になっていると思っていることは確かである)。