ここのところ,選挙を巡って筆者の常識とはかけ離れた非常識な行動が目立つ。いずれも,法律の「抜け穴」を利用している。
法律は1つの判断基準である。新しい行動パターンに対して適用できないケースはどんどん増える。しかし,法律の網の目をくぐるということは「犯罪」であり,犯罪を犯した人の理屈と,法の理屈,そして世の中の理屈は,すべて基準が異なる。これを判断するのが司法だが,そもそも司法が法律の範囲でしか物事が判断できない仕組みなので,おかしなことになる。
多くに行動が,「言論の自由」「表現の自由」という憲法で守られた権利をベースに実施されている。行動する側が自由だといい,行動を受ける側,あるいは周囲の自由は考えない。おかしな話である。
ある行動が取られる場合,その「場(プラットフォーム)」を制限すれば,「自由」で何が許されるのかの判断がしやすいのではないかと考えてみた。
選挙演説は,言いたい人(候補者)と聞きたい人(国民・市民),聞きたくない人(国民・市民)の3者しかいない。聞きたくない人はその場を離れ,また政見放送を聞かなければいいだけである。それが「自由」である。言いたい人の話を妨害すれば,それは妨害する側からすれば「言論の自由」だという主張が成り立つが,聞きたい人の立場では「聞く自由」を奪われることになる。言いたい人の「言論の自由」を邪魔する行為でもある。しかもこの妨害行動は,意図して行われており,ハラスメントではなく,相手の「言論の自由」を奪うという明確な「犯罪行為」である。
選挙ポスターも,「その選挙の目的」のための「主張」を国民・市民に訴えることに限定すれば,政策のないポスターや「表現の自由」を書くことはできない。
選挙に関しては,早急に関連法案を修正すべきだろう。
自由な言論や表現は,民法で言えば「公序良俗違反」に触れるだろう。しかし,民法には罰則もなく,警察も関与しないので,逮捕することもできない。
公序良俗違反は、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とされている(民法第90条)とあって,「ダメです」と言えても行動をやめさせることはできない。一方,刑法では暴行罪(刑法第208条)や傷害罪(刑法第204条),名誉毀損罪(刑法第230条)や侮辱罪(刑法第231条)などで逮捕することはできるが,「公序良俗に反した」という定義はない。つまり,「ヤッたもの勝ち」ということになる。ここは,選挙管理法や刑法に公序良俗違反に対する項目も加えるべきではないだろうか。
特に「音」は拡散範囲が大きく,その中がすべて「聞きたい人」ではない。電車の中のイヤホンの音漏れと同じ状況である。そこには何らかの規制が必要である。
前回の都議会選挙での演説妨害での逮捕も,また司法で時間を掛けて結論が出されるのだろう。今回の都知事選挙でのポスタージャックも,また売名行為を目的とした立候補も,いい加減にフィルタリングすべきだと思うのだが,提出書類の体裁が整っていれば形式的に無審査で受理するという選挙管理委員会の体質にもメスを入れる必要があるのではないだろうか。ただのお役所仕事であり,都民を守ろうという意識がまったく感じられない。
かつては「泡沫候補」と呼ばれた人たちが立候補していたが,明らかに政治をするという意欲はなく,無視していればよかった。しかし今回は,裏に巨大な組織が絡んでいる。頭数を集めての選挙妨害,政治妨害である。これが公共の電波,公共の場,そしてインターネットで無制限な行動になっていることに,政治の危機感を覚える。