2021/4/26~5/11の3回目の緊急事態宣言で,デパートや書店が休業要請対象になっていることに対して賛否両論が出ている。「これまで,クラスターが発生していない」のになぜ対象になるのか,という疑問である。
新型コロナウイルスが感染拡大を始めた2020年初頭は,密集,密閉,密接の「3つの密」を避けることが言われ,ソーシャルディスタンシングが強く求められた。「密接」については,手洗い,アルコール消毒,握手の禁止,テーブルなどのアルコール拭きなど,現在も継続して注意が呼びかけられている。「密閉」については,換気が呼びかけられ,店舗でも電車でも自宅でも,定期的な換気が続けられている。適切な換気ができているかどうかを二酸化炭素濃度で判定する測定器も使われ始めた。
3回目の緊急事態宣言で問題になっているのが「密集」である。変異ウイルスへの切り替えが進んでいるため,多くの人が集まるところがやり玉に上がった感じである。
これまで,クラスターが発生した場所は,ロッククラブから始まり,介護施設,医療施設,学校の寮,部活動部屋,飲食店,そしてカラオケ店である。2回目の緊急事態宣言では,おもに飲食店とカラオケ店が休業要請の対象となった。
3回目の緊急事態宣言の今回は,この飲食店とカラオケ店に加えて,床面積1000㎡以上の施設ということで,百貨店,デパート,大型書店が対象に加わった。「人が多く集まりやすい場所」ということが理由とされている。
追加対象になった百貨店や大型書店は,これまでクラスターが発生していないから対象にするのはおかしい,という批判がある。
しかし,今回の規制対象は「これまでクラスターが発生したかどうか」を問題にしているのではなく,あくまでも「人が多く集まりやすい場所」かどうかが問題になっているのだと考える。特に百貨店は比較的年齢層の高い人が集まる場所として営業を規制することで,全体の「人流を抑える」のを狙っている,と考えれば,対象となったのは頷ける。
では,大型書店や自転車店はどうか,と考えると,正直,対象となった意味が不明確である。それほど人が多く集まるとも思えないし,長時間滞在したりすることもなく,さらに言えば会話をすることもほとんどない。クラブハウスは人が密集する上に応援の声も上げるので感染リスクがあると言えるが,人が密集して滞在時間も長いが会話がほとんどないパチンコ店では最終的に感染例はほとんどなかったことを考えると,連続的にノリノリになって声を出しがちなイベント性の高い屋内施設(クラブハウス,カラオケ)は規制対象に入れて,スポーツなどの屋外施設,演劇,寄席,映画などは規制対象から外すという対応でいいような気がする。百貨店,大型書店,自転車店が対象になったのは,そういう意味からはおかしいと言えるだろう。
ただし,イベントや興行など,席間隔を空けて密集を避けたて静かに興行したとしても,イベントの開始時点や終了時点で一気に客が移動する際に,密とともに会話の可能性が高くなる。ダラダラと人が入ったり出たりするデパートなどは,むしろ密を避けられているようにも思う。「とにかく人流を抑えるのが目的」というのなら,すべての興行系の動きを止めた方がいいだろう。
ほかに「クラスターが発生していない」典型的な場所が,公共交通機関である。今でこそ,窓開けをしてもだれも文句言わないし,マスク着用率もほぼ全員,車内の抗菌・抗ウイルス加工も行われ,車庫での手すりの拭き掃除なども徹底している。それでも,何人かはマスクを外し,大声で,乗ってから降りるまで延々としゃべり続けている。
濃厚接触者を追跡する疫学的調査が難しい一つのケースとして,この公共交通機関での飛沫感染があると考えている。これを筆者は「隠れクラスター」だと思っている。人流を止めて,この隠れクラスターを止める最大の方法が都心へつながる公共交通機関を止めることである。
路上飲みは周囲に迷惑をかけなければいい,とコメントした人がいる。アルコールを摂取して,周囲に迷惑をかけない人がいる,と言っていることが信じられない。アルコール摂取により,気分が高揚し,会話が増え,声の大きさが大きくなり,そしてマスクなしでも平気になる。屋外であっても,1m以内のマスクなしの会話では,周囲に飛沫が飛び回ることがすでに証明されている。その後,自宅に帰るのに公共交通機関を使えば,路上飲みと同じ状況を車内に持ち込むことになる。さらにタチが悪いのである。だから,飲食店でのアルコール類の提供を止めさせ,アルコールを提供する店は休業要請しているのだから,路上飲みの禁止はもちろん,コンビニでのアルコール類の販売も自動販売機でのアルコール類の販売も止めなければ意味がないのである。
歩いている人の後ろを歩くのも恐ろしい。人とすれ違う瞬間に咳やくしゃみをされたら生きた心地がしない。ソーシャルディスタンシングを守らずに近づいてくる人が多い。感染力がさらに上がっている現在,あらゆる接近,接触を避けたい。テレワークがある程度できている筆者は幸せなのかもしれない。ワクチン接種がさらに遅れる状況の中,ここで感染を受けるわけにはいかないと思うが,それでもどこで感染を受けるかわかったものではない,という心配を常に持っているのだが,それをおかしいと思っている人が山のようにいることについていけない状況である。