タイトルのように書くと,どの広告のことを指しているのかはほとんどの方が分かるのではないだろうか。保険のCMである。
街角でサンプル食品を食べてもらって,美味しいと言わせる広告は,美味しいと言った人だけを映像として使えばいいので,これも不当な情報誘導の可能性はあるが,たとえばトマトジュースが嫌いな人は,どれだけ美味しいと言われても飲まないから,反対側の数字はさらに下がってしまう。100円ぐらいからせいぜい1000円ぐらいの商品なので,サンプル数は多く取ることができる。そういう意味では公平とも言えなくもない。定期しばりも基本的に関係ない。
一方,問題視している商品は,毎月の支払いが数千円から数万円もかかり,しかも継続支払いが必要で,継続期間も5年や10年ではない。そういう商品を,「私たちにピッタリの商品」などと素人にセリフを言わせるのは,商品に対する責任回避に思われる。画面上に「これは個人の感想です」などと表示するのも,責任逃れである。
出演者に対しては,その商品のモニターになってもらうことで,支払いはゼロなのだろう。そのしゃべり方も,セリフを棒読みしているだけで,「自分たちはセリフを言わさせているだけで,責任はありません」と言わんばかりである。
俳優や歌手,お笑い芸人まで使うCMは,出演者に莫大な出演料を支払う。その結果,先におカネが必要になる。素人CMだとこの危険を回避できる。
こういうCMで勧誘する企業は,信頼できないと思うのだが,さらに輪をかけて「資料請求すると○○が当たる」などと畳み掛けてくる。これに釣られる消費者もいるわけで,これこそ公平な商習慣に違反するのではないだろうか。
サプリメントのCMでは,医薬法に基づいて記述に厳しい制限があり,違反すれば,業務停止処分などもありうる。保険商品は,もともとが「独自の危険率設定」で死亡リスク・事故リスクを算定して保険料を決めて販売する架空商品である。安全をカネに変えるもので,補償はするが保証はしない,という商品である。危険率が上がれば保険料も上げ,在庫もなければ,製造コストもなく,確実に売上を上げるビジネスモデルである。最大のコストである人件費も,外交員という歩合制の営業で行ってコストカットしている。
内部留保が基本的に大きく,この大量のカネをさらに金融市場に投資する。他人の命を補償するという名目で集めた大量のカネで,金融投資して儲けるという,まあよく考えられた業種である。正直,それだけに,もっと誠実なプレゼンテーションをしてもらいたいと思うのである。いたずらに危機感を煽るCMもいかがなものだろうか。
正確にコストを上積みし,適正な利潤を加えて,販売するモノづくり業界から見ると,人の弱みにつけ込む悪どい商売と見えるからである。いったい,筆者もこれまでどれほどのおカネを支払ったか分からない。保険が支払われるような状況にならないように,細心の神経を使い,病気や事故を起こさないように努力している。逆にこの仕組みを利用して保険金を巻き上げようとするヤツもいるから,正直,人間社会は嫌いである。