2024年元日に起こった能登半島地震は,振り返ってみるといろいろな点でこれまでの大地震と異なる特徴を持つと思うので,まとめておくことにする。
特徴は,地盤の隆起と横移動により,被災地全体の地面そのものが動いたことである。地震の被害が,「建物の倒壊」によるものが中心になっている。しかも,大きな揺れが数日間にわたって繰り返し発生し,建物の倒壊,地面の隆起,がけ崩れ,液状化が進んだ。
東日本大震災では,被害の大部分は「津波」によるものだった。建物の倒壊よりも津波で流された被害者が多い。基本的な揺れは1回である。
阪神・淡路大震災では,断層に沿って地面がずれ,大きく移動はした。しかし隆起は限定的で,しかも基本的に1回の揺れだけだった。地震に伴う火災で神戸市が広範囲に燃えたことによる被害者数が多い。
大きな横揺れや長周期地震動による被害は,能登半島地震と阪神淡路大震災で共通する。一般家屋で1階が押しつぶされるパターンが見られた。しかし,阪神淡路大震災では陸路が比較的早期に確保できたため,復旧活動の開始は早かったのに対し,能登半島地震では陸路,海路とも絶たれ,2週間が経とうというのにいまだに孤立地域が20カ所もある。
関東大震災 | 阪神淡路 | 東日本 | 能登半島 | |
発生 | 1923/9/1 | 1995/1/17 | 2011/3/11 | 2024/1/1 |
マグニチュード | 7.9 | 7.2 | 9 | 7.6 |
最大震度 | 6 | 6 | 7 | 7 |
震源 | 神奈川西部 | 明石海峡 | 宮城沖130km | 能登半島先端 |
深さ | 陸地23km | 海峡16km | 海底24km | 海底16km |
長周期振動 | ◯ | ◯ | ||
津波 | ◯ | ◯ | ||
火災 | ◯ | ◯ | ◯ | |
液状化 | ◯ | |||
原子力発電所 | ◯ | ◯ |
地盤が動くという意味では,1964年6月16日の新潟地震での液状化現象を思い出す(https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001466321.pdf)。当時の4階建ての県営アパートが根こそぎ倒れた。震度は5だったという。今回の能登半島地震でも,新潟で液状化現象が観察された。基本的な地盤は変わっていないようであり,日本海という特徴的なバスタブ構造の周辺ではどこでも起こりうると思われる。
阪神淡路大震災は,断層が動いて長周期地震動で建物が倒壊したが地盤隆起はなかったし,液状化現象もなかった。被害が大きかったのは神戸市内の火事だった。
東日本大震災は,海底の地盤が隆起して津波が発生し,被害は津波によるものが中心だった。長周期地震動も地盤沈下も液状化現象もなかった。
これに対して能登半島地震は,断層が動くことで長周期地震動が起き,建物が倒壊するとともに,地盤が隆起し液状化現象と津波が発生した。被害の多くは,一般住宅の倒壊によるものだった。津波は発生したが,人的被害はほとんどなかった。火災が発生したが,住民は津波を避けるために避難していたため,火災による人的被害はなかった。
地面にまで断層面が出てきてずれる,という現象はこれまでも想定されており,断層の真上に原発がある場合にその安全性が問われてきた。確かに危険だが,配管が壊れるとかはあるにせよ,土台が崩れることは想定されていない。
しかし,断層に加えて液状化現象が起きる場所だと,土台そのものが原発を支えきれなくなる危険性がある。
もともと,原発は冷却水を確保するために海岸近くにある。今回の能登半島の志賀原発も土台の液状化は大丈夫なのだろうか。新潟,茨城,千葉などでこれまでも地震で液状化が報告されている。断層だけでなく,液状化という視点からの土地の再点検が必要なのではないのだろうか。
液状化現象の怖いところは,まさに足元が崩れることである。崖の上に家を建てたら,ひょっとしたら足元が崩れるかもしれない,という覚悟はあらかじめできる。それを見越して見晴らしの良さを取っているからである。高原の別荘なども同様である。
しかし,平地でなだらかな土地で液状化現象が起きると,土地そのものがそれまで支えていた家や道路,電柱を支えることができなくなり,まさに砂の上に作ったお城のようになってしまう。海岸なら波で流されてしまうだろうが,砂場なら雨が降れば崩れるのと同じ状態になる。
こうなると,一般の四輪車は全く役に立たなくなる。舗装の大きなひび割れやめくれ上がりなどの光景を見て,これはもはや舗装道路ではなく,ただの荒地のように見えた。キャタピラー車でないと前進できないように思えた。
キャタピラーといえば戦車を思いつくが,戦車では重量が重すぎて沈んでしまうだろう。軽量でゴム製のキャタピラーを履いたトラックがあれば,人員搬送,物資搬送に使えるのだが,そうした車両はないものだろうか。
【追記】クローラーダンプという車種があった。まさに上記のイメージのクルマだった。しかし,最高速度は約10km/hだった。近くまでトレーラーで運び,悪路の手前から稼働させる。1トン車,1トン以上車もいろいろある。どうして投入されなかったのだろうか。