東京都でカスハラ(カスタマーハラスメント)の条例が可決された。カスタマー,つまり“お客様”からのクレームから店員や公共機関の窓口担当者を守るための法律である。
その趣旨は理解できるし必要な法律だと思う。ただ,カスハラという言葉の使い方には,個人的には違和感を感じる。
ハラスメントとは,「その人が意図していなくても,相手が不快な思いをする」行為のことである。セクハラ,パワハラがその典型である。男性の何気ない行為が女性にとっては不快だったり,上司の何気ない行為が部下にはストレスだったりする。
同じ人間関係でも,意図した行為はハラスメントではなく「嫌がらせ」「イジメ」「不当行為」「犯罪」である。意図があるかないかで,言葉を使い分ける必要があると,個人的には感じているのである。
カスタマーハラスメントの対象とされているのは,基本的には「クレーム(文句,苦情)」である。その内容が理にかなったものであれば,陳謝して受ければいい。別に客が店員を困らせようと思って窓口に来るのではなく,客が本来受けるべき利益が得られないことに対する意見なので,窓口は受けて客に満足を与えるのが仕事である。窓口業務,カスタマーサポート業務は,このお客様満足度を上げるための対応をすることであり,多少のプレッシャーは受けても,これをハラスメントとして受け止めるのは筋違いだと思うのである。
一方で,難癖をつける客は,店や窓口に対する「嫌がらせ」であり,これは窓口では解決できない問題である。そこに延々と難癖を押し付け続ける行為は,もはや「営業妨害」という犯罪と考えられる。
何でも「ハラスメント」を付ければいいというものではない。スメハラ(ニオイハラスメント)は厄介--基本は清潔を保ち無香料を原則とした方がいいと思う - jeyseni's diary (hatenablog.com) (2024/5/18)のことを書いたが,これはわざとそのニオイをつけて近づく人はいないから,ハラスメントに当たるのである。
必要以上に食い下がって自己主張をする,という意味では,交通違反者と警察,被告と裁判なども厄介な場面である。本当に違反や犯罪をしているのなら,素直に認めるべきだし,していないのなら冤罪である。そこに情状酌量などという妥協点を作るための弁護士という仕事があり,さらに話がややこしくなる。
“ハラスメントメーター”みたいなアプリの開発が必要な段階かもしれない。それこそ,ビッグデータをベースとするAI(人工知能)の出番ではないかと思う。
ある行為が「ハラスメント」に相当するかどうかの基準は,行為を受ける側の個人によって変わる。行為が「繰り返して」行われたり,「一定時間以上に」行われたりすることに対して,一定の基準は必要かもしれない。その際の,行為側と受け手側のテンションやストレスの度合いも,測定のパラメーターに加える必要がある。
ハラスメントという言葉が独り歩きすることで,逆に人間関係がギクシャクしてきたような気もする。男性は女性に対して何も言えなくなり,上司は部下に対して指導ができなくなる。平等,同権,多様性な社会は,個々にとっては暮らしやすいかもしれないが,方向性がなくなり,目標がなくなり,活力も削がれてしまうような気がする。2000年以降の日本の転落に背景に,ひょっとしたらこの「ハラスメント」対応があったからかもしれないと思ったりもする。
相手を思いやる必要はあるが,それが過度な「遠慮」であってはならない。逆に,過度な思い込みによって簡単に「犯罪」に移行してしまうという理性のなさは,家庭の崩壊,教育現場の崩壊が遠因だと思われる。相手のことを考えない,自己主張ばかりの環境で育ってきて,社会に出て他人と出会ったときに相手のことを考えられないため,自分を正当化し,相手を落とし込む。これはハラスメントではなく,もはや人間関係の崩壊である。
言葉を短縮して簡単に使ってしまう現代日本人の特性も,人間関係の崩壊を招いた理由の1つだと個人的には考えてしまう。言葉をもっと大事に使ってほしいと思うのである。