jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

観光立国をやめよう--他国の人に媚びを売って儲けるスタイルは発展途上国型

電車を待っている列に,海外からの旅行者と思われる若者が割り込んできた。筆者の前に並んでいた人の前だったので声掛けはできなかったが,筆者の前後だったとしてもひょっとしたら声を出せずにそのまま割り込みを許してしまったかもしれない。

 それほど,日本のアイデンティティを自分が失っていることに愕然としている。

 「列に並んで順序を守る」行動は,日本人らしい礼儀と他人に対する配慮だ,として,しばしばネットでも紹介される。海外の人から見ると,それが珍しいことだし,自分たちにはできない行動だと称賛されるようである。

 では,「郷に入りては郷に従え」のごとく,日本に観光旅行に来たら日本の習慣どおりに行動するか,と言えばそんなことはない。ならば日本人としては,「こういう場合,列を乱さないのが日本のルールやマナーだよ」と教えてあげるのが親切というものだし,かつての自分ならそうしていただろう。実際,日本人がこの割り込みをした場合は,(相手にもよるが)一言注意はするだろう。

 しかし,観光立国とばかりに,海外からの旅行者による外貨で日本全体の収入が過去最高になった現在,旅行者に対して文句を言うことがためらわれてしまうような卑屈な気持ちになっている自分が,情けなく思っている。これが日本の文化だよ,やり方だよ,と胸を張って言えなくなっているのである。

 実際,観光立国どころか,オーバーツーリズムとも呼ばれる海外からの旅行者の押し寄せによって,日本の文化は踏みにじられている。観光地では旅行者に媚び諂って外貨を落としてもらうようにしている。さらにおかしなことに,海外からの旅行者に対して高額な請求をする二重価格がまかり通っている。これを知ったら,怒り出すのではないかと思うのだが,平気で「ラーメン4000円」などという値段を付けている。それでも,為替差益によって相手にとっては安い価格に見える。

 かつて,海外旅行は日本人にとっては「先進国の優れた文化に触れる」ための勉強旅行だった。〇〇主義を学び,〇〇技術を学び,それを支える〇〇文化を学び,そのいいところを取り入れて日本を進化させてきた。筆者の偏見もあるが,旅行に行くなら欧米が対象であり,ロシアを含む東欧,中国を含むアジア,そしてアフリカは対象に入っていないし,現在も行く気はない。そこには独自の文化や習慣があるが,直接行って知る必要を感じないし,わざわざ見に行く必要も感じない。まして,参考にして自分たちに取り入れる気持ちもない。それほど,日本の文化がしっかりしたものだと思っているからである。技術的にも主義的にも,日本がもはや海外に学ぶものはないと思っている。さらに,為替の関係で海外旅行が割高になっている現在,海外に行く意味を全く持っていない。

 逆に,日本が海外からの旅行者をフリーで受け入れているのだが,海外の人に今の日本で見せたいものが何もないように思っている。寺社仏閣を見せてもただ珍しがって写真を撮って撒き散らされるだけで,日本の文化や伝統を学ぼうという意思を感じない。彼らにとって安い買い物でごっそりとお土産を買って帰るだけである。富士山の弾丸登山など,何の意味があるのか,まったく理解できないが,怖いもの見たさ,SNSへの発信,自慢話,だけの行動のように思える。その勝手行動を許してしまうのが,今の日本である。

 列の割り込みを注意した場合,相手は嫌な思いをするだろう。しかしそれがマナーだということをきちんと理解してくれるような相手なら,注意したかもしれない。若者に対して,本来ならきちんと教えてあげるべきなのだが,なぜか「海外からのお客様」といった意識がどこかに働いて,嫌な思いをさせなくても自分がガマンすればいいか,といった投げやりな気持ちになってしまっている。どうせ忠告を聞かない日本の若者の姿を重ねてしまったのかもしれない。

 なんだか卑屈になっている自分が情けない。今の日本が,かつてのJapan as No.1の日本ではなく,観光客にペコペコする,いわば発展途上国,いや後進国に成り下がってしまっているように思えてならない。

 40年も前にアメリカに留学した際,アメリカ人学生から「将棋しよう」と言われた。日本人なら将棋も柔道も全員ができると思い込んでいるようだったが,その文化を学んでくれていることにちょっと感動した。自分は日本人なのに,日本の文化にそれほど関心がないことにちょっと卑下してしまったほどである。日本でお酒の杜氏になった人や,漆塗りの職人になった人など,日本の文化に感動して一生を賭ける人もおり,すごいなと思ったりする。しかし,今の観光旅行者にそういった思いを抱かせる文化がまったくない。単なるお土産物文化になってしまっている。

 さらに,日本の食材が高値で売れるという理由で,東南アジアにせっせと輸出して喜んでいる農林水産業を見ると,彼らは儲かって仕方がないのだろうが,日本の宝をいわば転売していることになる。一方で,食品偽装という詐欺犯罪も起きている。まったく理性を失っているとしか言えない状態だと思える。

 日本のアイデンティティをもう一度取り戻したい。世界の力学が不安定な現在,1国で自立できる食糧安全保障体制,防衛体制,そして何よりも国力を高めるモノづくり産業の育成,そしてそれに必要な国民の教育体制の革新を行う必要があるだろう。

 かつて欧米では,日本人の団体観光客が押し寄せた様子を,背広に黒メガネ,首からカメラを掛けた姿で風刺した。日本に踏みにじられることに対する抵抗であり拒否感だった。今,日本はかつての欧米の立場に立って,中国を含む東南アジアの富裕層を中心とした観光客に対して抵抗すべきだと思うのである。でないと,日本の文化が荒らされて,取り戻しができなくなるように感じる。