捜査権や逮捕権を持たない部署や,署長,副署長が,犯人と向かい合い,人情で犯行を認めさせて,自首させる,というストーリーは,ハードボイルドな刑事モノドラマのアンチテーゼとしてよく作られる。また,犯行の決め手となる証拠を見つける鑑識部署,証拠を科学的に分析する科捜研,別部隊としての鉄道警察隊や消防署員の活躍で,事件が解決するストーリーも,幅広く使われる。犯人の素性も,ほとんどは被害者の関係者であり,どこかで糸がつながっていたり,早い段階で接触していたりする。そこから人情で問題解決に向かう。
昨今の犯罪は,この「糸」がまったくない無差別な犯罪が多い。しかも「高額アルバイト」として匿名で雇われ,マニュアル化された手順に沿って,見知らぬ相手に対して犯行が行われる。被害者との面識もなければ,犯人グループ内の面識もない。
しかも,実行犯が素直に出頭してくるケースがほとんどである。目的を達成したら,「自首すれば罪は軽くなるぞ」と指示役から連絡があるのだろう。そして指示役は闇に隠れてしまう。匿名で指示を受けているだけなので,そこから足がつくことも滅多にない。
オレオレ詐欺も一種のマニュアル犯罪だったが,実行までの手順が長い。複数の役が協力して被害者を落とす必要があり,少しでも警戒されたらその犯行は実現しない。成功率は10回に1回程度だったろう。
ところが昨今の押し込み強盗は,被害者が準備する間もなく犯行が行われる。暴行から殺人までエスカレートしてしまう。オレオレ詐欺では,電話を切る,家族に相談する,などの時間的な余裕がないわけではなかった。そこをどう追い込むかが詐欺グループのテクニックだった。しかし押し込み強盗では鍵や窓の破壊,住人の縛り上げ,脅し,暴力と,逃れる手立てがない。
それにしても,宝石店を襲うのはともかく,一般住宅で被害を受けている人たちが高額な金銭や宝石類を奪われるケースが多い。どういう方法でターゲットを決めているのだろうか。そういった辺りから,指示役の行動パターンを辿って犯人を割り出すための仕組みを,AIを活用して探る段階に来ていると思われる。人間関係図を作ってもおそらく犯人にはたどり着かない。
SNSの運用会社がまず,AIを導入すべきで,自分たちのプラットフォームで犯罪が行われたら,即運用停止,といった法律すら必要だと思われる。いったん,インターネットがない時代にまで戻ってみるぐらいの覚悟が必要なようにも思える。