2023年末にChatGPTという生成AIが登場から1年しか経たないのに,中国でもDeepSeekが開発された。かつて,人工衛星打ち上げでアメリカが当時のソビエト連邦に先を越されたことに例えて「スプートニク現象」とも呼ばれているようである。
人工衛星は,軍事の一貫として宇宙空間を支配することが目的であり,打ち上げ技術はミサイルやICBM(大陸間弾道弾)開発と直結する。当時の米ソ軍事対立を象徴しており,その後の核兵器開発競争と核の脅威へとつながって行った。その影響は,現在のロシアによるウクライナ侵攻の背景にもつながっているし,北朝鮮による核兵器開発にもつながっている。世紀末時計があと90秒と残り時間短縮した1つの理由でもある。
ただ,核兵器開発には「平和」を願う多くの人々の願いによる抑止力がある。ほぼ機能しなくなっているとはいえ,国連も基本的には核兵器拡散反対の立場にある。一方で,地球温暖化対策としてCO2削減に貢献する原子力発電については,原発事故の可能性や原発の寿命,廃炉などの問題が解決されておらず,全面的に賛成と言えない状況にある。
一方,生成AIはベンチャーによる開発である。巨額の投資があったとはいえ,そのベースにはインターネットという成長した巨大ネットワークとそこにつながる多くの分散型コンピュータの利用,そしてGPUという画像処理専用チップを流用するというアイディアがベースになっている。考え方と知恵の勝利だとも言える。
生成AIは,既存の大量のデータが必要になる。文字情報,画像情報をいち早くデータベースとして蓄積したgoogleが,最終的には最も正確な答えを出せると考えられる。しかし,特定の問題に対して集中的にデータを蓄積すれば,トップに踊り出ることは可能だろう。DeepSeekも一般情報が中国国内に限られていたために,正確さが出なかったという評価もある。
ドラマ「Doctor X」にAIシステムが登場したのは2019年のシリーズである。多くの症例や手術手法の論文データを基に,手術を含む治療法を提案し,さらに手術の途中でも方法を指示するといった使い方を見せている。多くのCT画像や診断などの情報を基に,最適解を提案しているのだろう。手術中のAIによる指示は,リアルタイムの画像を取り込んで判断するようにしているのかもしれない。手術中のアシストは現時点でもまだ無理と思えるが,画像診断からの判定については人間での見落としの可能性を克服することが期待できる。現実,胃カメラのリアルの画像から良性か悪性かの判断ができる診断システムを富士フィルムが開発しているようである。
世界中の情報より「目先の情報」を学習してみろ--AIで皿洗いができるのか - jeyseni's diary (2025/2/1)と,つい先日書いたが,インターネット上の情報がフラットに入手できるようになったことは,オフィスに座ったまま世界規模の仕事ができるという意味で画期的な出来事である。一方で,これを悪用しようとする知恵が働く人々にとっても,実に都合がいいプラットフォームになっている。忍者のように自分の身を隠して(匿名で)行動ができるからである。これが多くの新しい知能的な犯罪(詐欺)を生み出してしまったし,格差社会の中でカネに困ってしまった人がリアルな犯罪に手を出しやすくなっている背景にもなっている。
東京大学には,人工知能研究で長年の実績のある研究室があり,かつてのAIブームとその衰退を何度も経験したのちに,今回のAIブームで研究室からのベンチャー起業が30社を超える現象が起きている。なんだか,甘い砂糖に群がるアリのような印象である。彼らは何を開発しようとしているのか,正直言えば心配である。
生成AIを利用するために,プロンプトという「指示書」をどう書くかがポイントになっており,そのプロンプト作りを指導する講座も登場した。しかし,今の生成AI利用は,書類生成,画像生成,動画生成と進んできているが,基本的にはいずれも「フェイク情報」を作り上げているに過ぎない。そのフェイクさが想像を超える出来栄えなので,人々が熱中してしまっているだけなのだが,中にはそのフェイク情報を悪用するという知恵を働かせる一歩先を行ってしまっている人たちがいて,これが問題を起こしているのである。
かつて人類は,争いを避けるためにルールを作るという知恵を持つことで,発達した。今,インターネットというルールのない無法地帯の闇の中で,あらゆる悪が発展しようとしているのを感じる。AIは,その上を行くために使うべきだと思うのである。
すでに,チェス,将棋,そして最も難関と言われる囲碁ですら,コンピュータが人間を越えるまでになっている。しかし,これは記憶と読み計算という力技である。犯罪をどう防ぐか,事故をどう防ぐかについて,まだまだデータの蓄積が足りないかもしれない。しかし,有名人を名乗るフェイクや,誹謗中傷のフェイク,そして現実社会で異常行動を起こしている犯罪予備軍の可能性を検出する技術など,やるべきことは別のことではないかと思うのである。
結果を出すために,プロンプトを考え続ける時間があるのなら,「結果」を自分で考えろ,と言いたい。でないと,人間のオリジナリティが失われてしまう。