2022年11月1日に自転車安全利用五則が決められ,2023年4月から,ヘルメット着用が努力義務とはいえ,大人でも「義務」づけられることになる。
まず,決められた五則は以下のようになる。
1) 車道が原則、左側を通行。歩道は例外、歩行者を優先
2) 交差点では信号と一時停止を守って、安全確認
3) 夜間はライトを点灯
4) 飲酒運転は禁止
5) ヘルメットを着用
1)~4)は基本的に以前から言われていたのでそれほど違和感はない。特に3)と4)は何十年も前から当然だと思ってきているので,夜間にライトを点けずに走っている自転車を見ると,正直「穴に落ちてしまえ」と思ったりする。実際,筆者が子供のころは,まだ街中でも舗装されていない路地は多く,水たまりができるような凹みがたくさんあった。夜間にライトを点けないなど,自分がケガをするだけだと思った。それほど,日本の道路の舗装率は上がったのだと思うし,都会ではライトなしでも確かにそれなりに明るいので問題はないのかもしれない。
さらに今のLED式のランプがない時代,ダイナモという発電機をタイヤにこすりつけてライトを点けていた。ダイナモを回す分,タイヤに抵抗が加わるので,ペダルを漕ぐ力が余分に必要だった。LED式のライトは,タイヤの回転の力の一部を使うだけで十分な電力が得られるので,ペダルが重くなることもなく,しかも豆電球式に比べて数倍も明るい。非常に安全に夜間走行ができる時代になったと思っていた。
ところが,このLED式ライトすら点けない自転車があるほか,ライトを上向きにして走る自転車が結構多いという困った現象が起きていると思っている。歩道で向かって来られると実にまぶしいのだが,まったく気に留めていないのである。
当初,この上向きライトは女性の乗る自転車に多いという印象を受けていた。どうしても機械類に弱いのではという先入観が先に立つので,まあ仕方がないと思うときもある。しかしこれが男性の乗る自転車になると,正直腹が立つのだが,昨今の人間関係から考えると,黙ってガマンするしかないとあきらめている。
1)の「車道が原則」には疑問を持っている。自動二輪(バイク)でも,車道は危険なのである。四輪車と同じスピードが出せる自動二輪はまだいいが,時速30kmが原則の原付バイクでは,車道の中を走ることはできず,車道の路肩を走ることが多い。また同じ路肩を自動二輪も走って四輪車の前に出たりする。「自転車の車道が原則」と言っているのは,この原付バイクや自動二輪も走るレーンと同じである。
自動二輪は自重が100kg~300kgもあり,大人が乗っても走行中は安定して自立できる。一方,原付バイクは100kgに満たないものがほとんどである。スクータータイプは重心が比較的低いから安定しているが,タイヤが小さい分,障害物があった場合に不安定になりがちである。自転車は大人の体重よりもはるかに軽く,しかも重心位置が非常に高く,さらにタイヤが細いため,最も不安定で倒れやすい。車輪は大きいがタイヤが細いので,障害物に対しても非常に不安定だし,いったんバランスを崩した場合に復帰するのが極めて困難な乗り物である。
さらにこの路側レーンには,電動スクーターも走ることになっている。自転車,電動スクーター,原付バイク,自動二輪が混在して走る細いレーンとなり,極めて危険な状態になる。
路側レーンを自転車が走ることを原則化した理由の1つが,歩道を自転車が通行することで歩行者が事故に巻き込まれる確率が高いことが挙げられる。歩行者保護の観点から,歩道から自転車を排除するための新ルールと見ることができる。
自転車が車道を走ることで,今度は四輪車や自動二輪などと接触して事故に巻き込まれる確率が高くなるという矛盾が生じるが,これを解決するために加えたのが5)のヘルメット着用義務化というように,筆者には見えるのである。
実際,バイクですら,トラックなどの四輪車に巻き込まれる事故は多発している。ヘルメットを被っていようがいまいが,重傷から死亡に至る大事故が多い。この同じ条件で,自転車も四輪車やバイクとの接触,巻き込みなどに遭う確率が高くなるとするなら,自転車用のヘルメットなど,ほとんど意味がない。
自転車用ヘルメットは,自損事故,つまり自分で転倒した際に頭を保護するのが目的である。非常に軽量であるほか,自転車レースの影響もあってか,空気が通る大きな孔が開けられていたりする。自損程度の衝撃には耐えられるが,四輪車への巻き込みなどにはまったく歯が立たず,頭ごと踏み潰されてしまう。バイク用ヘルメットが一定の安全基準が定められているのと違って,ほとんどファッション的な意味合いしかない。正直,この自転車用ヘルメットを仮に義務化したところで,巻き込み事故などの死亡率を下げることはまったくできないと考えているのである。
バイクに乗る場合,まず免許を取る段階から交通ルールがベースになっており,実車する際は四輪車と同じ車道を走る場合の危険性を実感する。したがって,きちんと規格どおりのヘルメットも着用するし,高速で走行時に万一転んだときのケガを最小限にできるように,革ジャンを着たりする。強風や雨,凍結した道路など,自然条件にも左右されるため,より安全な装備を準備するのが普通である。
四輪車が逆にいい加減な格好でも運転できるのと大違いである。四輪車は堅牢な車内空間が確保され,さらに安全ベルト,エアバッグなどにより,事故で相手を傷つけても運転者自身は装備によって相当保護されている。しかしバイクは,自分の命は自分の責任で守る,という意識が強い。何しろ,事故を起こせば,相手にも被害が及ぶが,自分も死ぬかもしれないからである。
自転車が,歩行者と同じ空間にいてぶつかれば,歩行者への被害は甚大だが,自転車運転者が自損しても命に関わることは少ない。ヘルメットを着用すれば,自損時のダメージはさらに軽くて済む。しかし,歩行者を保護することはできない。自転車は免許なしで乗れるので,そもそもルールを徹底することは難しく,指導しても素直に守る人は限りなく少ない。新ルールでは罰則,罰金も設けられているが,どこまで機能するか分からない。
さらに分からないのが,電動スクーターが免許なし,ヘルメットなし,歩道走行可,というルールとの矛盾である。自転車以上に制御の難しい電動スクーターが,歩道走行して歩行者と接触した場合,自転車以上に危険な存在なのではないか。
筆者が自転車で行動する場合,現時点では駅との往復やスーパーマーケットとの往復に限られる。いずれも比較的幅の広い歩道がある道なのだが,駅周辺の歩道は原則,自転車通行が認められていない。すると,車道の路側を走ることになるのだが,バス通りでもあり,結構な交通量がある。はっきり言って自転車にとっては危険な道である。自転車を駅に預けて通勤・通学する人も多く,四輪車で走っていても路側を走る自転車を巻き込まないかいつも気になる。まして,右側通行をする自転車も多く,さらにライトを上向きにして向かってこられると,非常に困るのである。
自転車用のヘルメットも,ネットで検討してみているのだが,かなりいい値段でも結局はロードレースのタイプであり,自損事故で頭のケガを防ぐしか意味がないモデルばかりである。毎日使っても,おそらく1日20分ぐらいしか走らないために,本当にヘルメットの義務付けが適切なのか,というのが疑問でもある。筆者の家族のように5人もいる場合,大変な負担増になるからである。
自転車大国オランダの場合,まず市街地エリアには業務用車しか入れず,街中は歩道と自転車道のみで構成される。かなり広いエリアにわたって,歩行者も自転車も安全が確保されている。市街地の外は,車道に自転車レーンが確保されており,自転車レーンにバイクが走ることはない。歩行者=歩道,自転車=自転車レーン,バイク・四輪車=車道と,きちんと区分けされており,やはり安全が確保されている。自転車に乗る際にヘルメットを被るか被らないかは,自損時の自分のケガに対する自己判断だけである。
オランダの例から見ると,日本の交通ルールがいかにも後付けであることを感じる。都心の車道に自転車レーンっぽいマークが一部で付けられているが,そもそも路側には段差があり,また車道の石などの障害物が転がって集まる場所になっていて,自転車やバイクにとって非常に不安定なところになっている。まずこの路肩を整備するべきだというコメントは,以前にも書いている。 自転車、電動キックボードと道路--傾斜部分に透水性アスファルトを流し込むなどの発想の転換を求める - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2022/4/24。
四輪車も,大型観光バスやSUV車のような体積の大きい車が増えて,車道も手狭になっている。ここに,電動スクーターやセニアカー,電動クルマ椅子などの新しいモビリティーが加わり,既存の自転車やバイク,そして歩行者といずれもがレーンの取り合いになっている。公共交通としてのグリーンスローモビリティ(低速電動バス)なども導入され,さらに無人運用も実験されている。郵便物の配達のための小型電動ロボットも実験されている。しかしいずれも,現在の道路事情で問題なく運用できるとは思えない。かつて,大都市で活躍した路面電車がモータリゼーションのあおりを受けて四輪車に線路を奪われたように,結局は淘汰されるだけの気がする。
物理的な幅が確保できない現状で,あまり意味がなさそうになっているのが,街路樹ではないかと思う。街路樹を植える幅があれば,街路樹を撤去し,低速レーン(ママチャリ,セニアカー,電動スクーター用)と高速レーン(ロードレース用自転車,原付バイク)を確保できないだろうか。確かに,街路樹によって歩道に突っ込んでくるクルマを防ぐという目的がある程度達することはできるかもしれない。しかし,街路樹の間隔は10mが原則と言われており,歩行者を保護する機能は限定的に思われる。しかも,年々大きく育ち,枝の伐採などのメンテナンスが必要なことと,根が張ることによって舗装が持ち上がるなどの不具合が起きる。さらに落葉樹の場合,秋に大量の落ち葉が発生し,その処理にも不具合が生じる。ここは,ブサイクではあるがガードレールの設置の方が歩行者保護に役立つと期待される。