デイパックが通勤・通学カバンの標準となってから15年ぐらいは経つかもしれない。ノース・フェイスのボックス型リュック「ヒューズボックス」が学生たちの間で爆発的に使われ始めたことで定着したように思える。いつごろ発売が始まったかを調べているのだが,なかなかその情報には行き着かない。2000年過ぎではないかと想像している。
筆者はどこかで「ポリタンク型」という言葉を仕入れたので,頭の中では灯油を入れるポリタンクのイメージなのだが,真四角で大型,ずんどうというイメージで捉えている。容量がかなりあり,増え続ける教科書を入れて持ち歩くのに必要なのだと解釈している。
同じころ,通勤にも大きな背負い型バックを持ち歩く人が増えたように思う。かつて,資料が大量に入ったビジネスバッグを持ち歩いていたのは,営業マンというイメージで捉えており,オフィス勤めの人は新聞や雑誌を片手に持つだけの通勤が多かった。筆者は仕事がら,パソコンや資料を持ち歩く必要があったため大きめの肩掛けバッグを使っていたが,「普通のサラリーマンは楽でいいな」と思ったものである。ところが今や,だれもが大きなリュックに荷物をいっぱい入れて通勤している(分厚い荷物の中身は何? - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2022/5/13)。せいぜいパソコン1台が入ればそれで済むと思うのだが,何が入っているのだろう,と今でも不思議に思っている。
その巨大デイパックを,背中に背負うと邪魔になるというので,胸側に背負うスタイルも定着した。しかし,荷物が大きく,中身が詰まっている状態では,前に背負うスタイルであろうと邪魔なことにほとんど変わりはなく,「荷物は肩から外す」ことも提案した(「カバンは肩に掛けない」原則にしたい--車内のルールを改正 - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2023/6/25)。
ところが,もっと厄介なことに気づいた。電車から降りて歩き始めると,突然,前を歩いている人のリュックが目の前を横切るのである。片方の肩ひもを持って,荷物を反動で背中に背負う“振り背負い”が当たり前のように行われている。
“振り背負い”で重い荷物を振り回されると危険この上ないのだが,背中に背負う行為なのに,後ろの人を気遣う様子は一切感じられない。
しかも,多くのリュック,デイパックは肩ひもの調整シロであるシッポが20~30cmもブラブラしている。これがさらに反動でムチのように振り回されるのである。
なぜこうなるのかを考えてみたのだが,背負うときに片方の肩ひもだけを持って背中に回そうとするため,振り回転の反動を使うしかないからだと考えた。
筆者のデイパックには,中央に手提げ用の持ち手が付いている。バッグを背負うときは,まずこの持ち手を持ち,左側の肩ひもを左腕に通し,ゆっくりとバッグを背中に回す。次に左手でバッグを底から支えて安定させた後,右側の肩ひもにゆっくりと右腕を通す。まったく振り回す必要もなく,また動作もゆっくりなため,右腕も左腕も脇を締めて肩ひもに通すことができる。横の人に肘鉄を当てることもない。
つまり,「まず中央の持ち手を持ってバッグを支えてから背負う」という動作ができていない,さらに言えば,この中央の持ち手がない,あるいは貧弱,なのが理由ではないかと考える。
満員電車の中で,筆者はデイパックを肩から外し,中央の持ち手を握って足元に下げる。片手で支えることができる。もう片方の手は吊り革や手すりを持つ。つまり,この態勢だとスマホを使うことはできないし,使わないと決めている。どうしてもスマホを使いたいときは,デイパックを床に置くか,荷棚に載せ,片手は吊り革,もう片手でスマホ,という使い方をする。
ところが,デイパックを背負ったり前背負いする人は,とにかくあらゆる瞬間,スマホを触っていなければ気が済まない人たちである。したがって,歩きスマホはなくならないし,周囲に気を配ることもできないのではないかと考える。
実際,筆者が現在のデイパックは,ママバッグと呼ばれる女性用のデイパックである。堅牢ではないが,とにかくポケットがたくさん付いていて,赤ちゃんを抱いて背負うのに適している。これを買う決め手となった1つが,中央の持ち手がけっこう大きかったことである。これなら,背中に背負わなくても,手提げでも持てると思ったし,実際手で持って歩くことも多い。
ところが,巨大なボックス型リュックでは,おそらく中央の持ち手は“オマケ”,あるいは飾り程度の意味しかないのではないか。ここを持って少し移動させるぐらいで,持ち歩く用にはできていないのではないか。しかも,肩ひもの調整シロが長いので,リュックを手に持つと肩ひもの調整シロが地面を引きずることになる。したがって,なるべく早く背負いたい,という意識も手伝って,“振り背負い”が行われる,という悪循環なのだと思う。
中央の手提げ用持ち手がないバッグのもう1つの代表格が,ランドセルである。これも背負うときには片方の肩ひもを持って振り背負いするしか方法がない。結局,小学生の頃からずっと,バッグの振り背負いの習慣ができており,大人になってもまったくクセが抜けないのだと思う。
ランドセル問題は,さらに深刻であり,教育のあり方,学校の運営の仕方などにも関わってくるので,議論は別にしたい。ランドセルやバッグの設計をもう一度見直してもらうことで,解決の道もあるのかもしれないという提案である。