jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

Kintoneが評判な理由が分からない--せめてExcel同等の基本機能が欲しいのだが・・・

Excelが重いからKintoneを」と,女優の木村文乃さんが出てきたCMが使われたのは2020年。筆者もExcelは嫌いなので,ネットワーク環境でファイル共有しながら使える表計算系ソフトなのだろう,という認識しかなかった。

 それから3年経った2023年,CMでは導入企業30000社と表現し,導入が急速に進んでいることがアピールされている。

 筆者の勤める会社でも,営業支援ツールとしてKintoneの導入を決めて,旧システムからの移行が進められている。会社の標準システムとして,筆者の編集系仕事にも展開できればと考えた。ただ,システム開発者は,編集系の複雑なやり方を理解するのは相当困難と思えたので,少し手助けをすることにした。個人登録で30日間の試用期間中に,少し触っておこうと思ったのである。

 さて,使い始めてみると,これは表計算ソフトではなく,カード型データベースソフトであることが分かってきた。もちろん,これにコミュニケーションツールが付属し,関係者とコラボレーションしながらの作業に便利なのだろう,ということは理解できた。Excelファイルをサーバーに置いて,これで共同作業をするというのが,なかなか危険な方法であることは理解しているからである。

 ところが,同じカード型DBであるファイルメーカーを駆使してきた筆者にとって,Kintoneには相当な違和感があった。さらにExcelに慣れた人にとって,どれだけ使い勝手を理解して使ってもらえるか,という点があったので,いちおうここに書いておくことにしたい。なお,Kintoneの設計思想として,さまざまな機能を関係各社がプラグインという形で開発して提供する,というスタイルを取っているようだという点は評価しているつもりである。ただ,何かしようとすると,いちいちプラグインを探して導入しなければいけない点が,今1つなじめないところである。

 まず,Excelから移行する場合,元のExcelファイルを読み込んで一気にデータベースを構築する機能はある。すでに数百レコードといったデータをExcel上で管理している場合には有効である。

 ところが,読み込む際に,フィールドのタイプが勝手に決められてしまう。数字であれば数値タイプ,文字列でもなぜか短いフィールドはプルダウンタイプに設定される。読み込む前にこの設定を変更すれば問題ないのだが,今度はExcelで柔軟に運用してきた点でエラーになる。数字のところに「XX円」と書いていようものなら,読み込む際にエラーになってしまうのである。

 ならば,とりあえず全フィールドを文字列として読み込めば,読み込みエラーは起きないのだが,今度はフィールドタイプを変更することができない。

 さらに,上記のように文字列として読み込んだ数字は,計算に使えない。「価格」×1.1で消費税込みの価格を出そうと思っても,計算してくれないのである。

 では,新しく数値タイプの価格フィールドを作り,ここに文字列として読み込んだ価格を全レコード分コピーしてフィールド移行できればいいのだが,この程度の単純なスクリプトが用意されていない。基本機能では,いったんデータをCSV形式で出力し,新しく所定のタイプのフィールドを作成したあとに再度データを読み込む,という方法が提供されているだけである。

 文字列フィールドの数値を,別の計算フィールドに「=フィールド名」でつないで「自動計算」させると,数値として認識され,これを基に計算する方法も知ったが,自動計算という割に,レコードをいったん「編集」モードにしないと計算してくれなかった。これを全レコード行うことも,実質的には無理である。

 Excel使いにとって最も厄介なのは,一覧表示でフィールド値を直接触ることができない点である。いちいち,編集モードにする必要がある。

 しかも,次のレコードに移る方法がない。いったん編集モードから一覧モードに戻り,レコードを移動してから,再度編集モードに切り替えるという操作が必要になる。

 一覧状態で,ソートしたり,連番をマウス操作で入力したり,といった,Excelでは当たり前の動作ができないのである。

 セルの背景や文字に色を付けることもできない。条件に応じて背景の色を変えられるだけである。

 もう1つ困ったのが,レポート印刷がまずまともにはできないことである。印刷ができるのはフォームレイアウトだけで,一覧表示では印刷ができない。一覧表示ではWebブラウザーの画面印刷機能しか使うことができず,細かい設定ができない。

 フォームレイアウトでは,フィールドの位置があらかじめ決められた間隔でしか配置できない。あと1mm上に,といった微調整ができない。フィールド同士が吸着するため,横方向に配置するには「スペース」要素を間に挟む必要がある。

 罫線は横方向だけで,縦方向の罫線がない。したがって,表の形で表現するには相当な頭を使う必要がある。また,その罫線の種類も太さも変えることができない。

 さらに,1つのアプリケーションで作れるフォームが1個だけというのも致命的である。一覧表示は複数設定できるのだが,なぜフォームが1個なのかと不思議に思ってしまう。取引先ごとに少しずつ表現を変えて印刷する,などという用途には使えない。

 また,リレーショナルデータベースではないので,たとえば顧客データベースの情報を取り込もうとすると「ルックアップ」という方法しか使えない。ルックアップの問題は,リアルタイムで情報更新されないことなので,顧客の連絡先が変わって更新されていたとしても,ルックアップ先では「更新」「再読み込み」しない限り,データが変わらない。これもなかなか危険である。

 とりあえず,30日の試用期間の中で3週間格闘して分かったことは,Kintoneは個人では使えない,ということだった。会社で正式に導入するのなら,カスタマイズを外部に依頼すればいいし,機能要求すればプログラマーは必要なプラグインを導入してカスタマイズするだろう。JavaCSSを使って実用的なレイアウトを作ることもできる。その分,コストは増えるが,それは会社の方針次第である。個人で使うのに,有料のプラグインは使わないし,ましてカスタマイズなどできない。

 Excelほど汎用的に「黒板」代わりになんでも書き込めるソフトは少ない。しかも,関数も充実しているし,連続データ入力などの操作性も抜群である。

 ただし,たとえばセルを1個消去しただけで,そこから後ろのデータが全部ずれてしまうといった危険性がある。1行を1レコードとして考えるデータベースと違って,「正規性」がないからである。

 筆者がファイルメーカーを愛用するのは,関数が充実しているほか,プログラムなしで手順を登録するだけで自動化できるスクリプトを持っている点,そして印刷レイアウトを自由にいくつでも設計できる点である。フィールドタイプを後から変更することもできる。唯一,一覧表示で縦横方向へのセル間の移動がマウス操作でしにくいのが悩みである。ちなみに,ファイルメーカーでは,データベースをWeb公開すれば,複数のユーザーがWebブラウザ経由で同時アクセスする方法も提供している。そのWebブラウザ上で,検索してレコードを絞り込んだり,印刷用のフォームレイアウトに切り替えることもできる。もちろん,ユーザー登録することでセキュリティーも保証できる。ただし,PC上でソフトを動かしている状態での動作保証は怪しいこともある。より強固なUNIX上でのサーバー動作でこれをクリアすることはできる。

 とりあえず,Kintoneの一覧表示で列を一時的に固定したり,編集モードにしなくてもフィールドを編集できるExcel風のインタフェースを提供してくれる無料のプラグインを見つけた。しかし,その都度,プラグインを探すような使い方では,ストレスがかかる。

 実はKintoneは,Excelで苦労していたピボットテーブルが簡単に作れるとか,表からグラフが一発で作れる,といったソフトかなと期待していたのだが,どうもそうではないようなのである。まあ,システム部が頑張って提供してくれるシステムは,有効活用したいとは思っている。