電車のディスプレイで,電車の保線,保安の仕事が紹介されている。日々の安全運行のために,日夜点検をしている様子が捉えられている。
流通の仕事はエッセンシャル・ワークであり,人々の暮らし,ひいては日本を支える大事な仕事である。実際にモノを動かすドライバーや運転士のほか,この流通インフラを支える保線,保安の仕事も重要であり,このインフラが崩れると日本経済は成り立たなくなる。
とは言っても,エッセンシャル・ワークは地味な仕事である。高度なプロフェッショナルの技術や技能,そして鋭い五感を働かせて,インフラに起こっている異常を見抜く必要がある。勘も経験も必要な世界であり,才能も忍耐力も求められる。
モノづくりにおいても,最後の検査工程は重要な工程だが,一般的には「コスト」とみなされている。検査にかけるコストを減らすことが利益につながる。そのためには製造時のミスを減らすことが求められるが,人のすることにノーミスは存在しない。
一方で,流通インフラは必ず劣化する。休むことなく運行することが求められ,何トンもの重さを支え,さらに天候や気候の変動をモロに受ける。鉄であれコンクリートであれ,アスファルトであれ,作ったその日から劣化が始まる。ネジやボルトも緩む。
どこまで劣化したら手当てすべきかを診断し,補修や交換を実施するのが保線,保安の仕事だが,実際に異常を検知して指摘できても,すぐに補修や交換ができるわけではない。補修のためのコスト見積もりが年々高額になっている一方で,経済の停滞で経営は苦しくなっている。わかっていても手を出せない,という放置状態が続き,やがて,豪雨や地震などの天災や,事故によってその不具合が原因であった可能性が指摘される。
流通インフラと同様,いわゆるライフラインである水道,ガス,電気のインフラも,日々劣化する。日本ではガス漏れ事故は少ないが,水道管の破裂は頻繁に起きるようになっている。地下のパイプでの異常を検知するのは大変難しい作業である。また,電柱そのものが地震に伴う地盤の液状化現象によって根元から倒れてしまう現象も目立つようになった。インフラは壊れない,という想定が完全に崩れつつある。
一方で,この保線,保安,保守,検査に関わるプロフェッショナルの作業環境は,残念ながら非常に劣悪であり,危険作業である。車両を下から覗き上げたり,橋や高架の下にぶらさがったり,営業をしていない深夜の暗闇での作業だったりする。
一般に,鉄道会社や航空会社に勤めようとする人は,電車や飛行機が好きなことが多いと思う。特に,運転士やパイロットは憧れのポジションである(乗り物の運転士になりたかったが--現実は厳しい仕事である - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2024/5/26)。保線,保守の仕事でも,電車や飛行機に身近に触れるチャンスはあり,外から見ると「好きなことを仕事にできて良かったね」と言えなくもない。
電車や飛行機が日々安全に運行できることを支える仕事は,やりがいもあると思うのだが,それを何十年も続けられるかとなると,今の日本での就職先としては二の足を踏む可能性も高い。いいモノを作ろう,いいインフラを維持しよう,というモノへの執着がなくなっているように思うのである。
さらに経営上の理由から,この保線,保守のインフラ維持業務を外注したり,子会社化して分離する傾向もあり,これによって管理がますます疎かになってくる。不具合が発覚するのは,事故が起きてからであり,インフラが崩壊してからということになる。
一方で,交通,流通のインフラを利用する側の乗客や注文主の横暴さも,日々高まっている。これは一種のカスタマーハラスメント(カスハラ)だと思うのだが(「カスハラ」はハラスメントではなく単なる「クレーム」--言葉の使い方に問題あり(個人的な意見です) - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2024/5/23),意図して運行妨害する人もいないわけではなく,これは犯罪(列車往来妨害罪)だと思うのである。これに対応する電鉄側,航空会社側も,業務意欲をなくしてしまう。
検査の自動化も進められてきたが,最終的には人間の目と耳,手の感触でしか欠陥が分からないという。自動化の先にこそ,現在流行りのAI(人工知能)技術を応用すべきと考える。
欧米のコンピュータ各社が,生成AIなどと称して「盗作AI」「偽装AI」の開発にうつつを抜かしている間に,日本はこのインフラ管理のためのAIを進化させるべきではないかと思うのである。ついでに,環境AI,SDGs-AIも作り,さらに世界平和AIも作って,地球温暖化,環境破壊を終息させるためのシナリオを作らせるAI開発をすることで,日本の立ち位置をしっかりアピールしてほしいと思うのである。
このためには,インフラの情報を細かく連続的に入手して分析するためのセンサーや通信インフラの開発と設置も必要になる。土砂災害,河川災害などの防止についても,単に定点カメラを付けて監視するだけでなく,数値で捉え,どんな雨パターンならどの場所で何分後に水位が異常上昇するかといった計算をいち早くする技術である。
同様に,防衛面でももっとセンサーを多く設置し,他国の動きを監視するAIが必要になってくるだろう。
正直,欧米の生成AIは人間の文化の破壊であると思っている。なぜこれをさらに推進しようとするのか,信じがたい世の中になりつつあると筆者は個人的には危惧している。