2022/3/16 23時36分に宮城県沖で起きた大地震で,関東一円で210万世帯が停電になった。宮城県や福島県では震度6強,関東は最大でも震度4。机の上の荷物やパソコンも落ちることもなく,それほど強く感じた地震ではなかったが,東京23区や神奈川県,埼玉県,千葉県などで停電になった。
東京電力の説明によると,大地震に伴って東北にある発電所が停止した。この発電所の電力は関東に供給される。電力供給のアンバランスが起きると,これに伴って発電所に大きな負担がかかり,全体がブラックアウトする可能性がある。そこで,バランスを取るためにスイッチを一部切って,特定地域の電力供給を停めるという安全装置が働くのだそうだ。UFR(周波数低下リレー)といういわば,巨大な分電盤のブレーカーが働いて電力供給を遮断した形になる。
この説明は納得できる。でも,普通の分電盤でブレーカーが落ちた場合,ブレーカーをONにすれば電力供給は回復する。今回の場合,発電所が電力供給を停止したためにその先が停電したわけだが,まずこの発電所はいつ復旧したのだろうか。
全国には大手の電力会社が10社ある。今回は,東京電力1社の中で電力供給のアンバランスができたために供給を停めたわけだが,そもそも緊急時にはこの電力10社が供給を融通しあってブラックアウトを防ぐ仕組みがある。この融通を調整しているのが,J-Powerという名前で最近盛んにイメージ広告を流している電源開発株式会社である。
電源開発は,「電源開発促進法」のもとに1952年に設立された特殊法人だったが,2003年に同法が廃止され,2004年に東証上場によって完全民営化した。J-Powerという社名に変更したのかと思ったら,単に愛称なのだそうだ。
2018/9/6に北海道で起きた「胆振東部地震」では,道内の発電所が停止し,北海道全域が停電するという大規模なブラックアウトが起きた。このときはほぼ100%回復するのに2日かかったという。発電所が回復するのに時間がかかったわけだが,本来なら,本州から北海道に電力を融通することで,大規模なブラックアウトは防げたはずだったという。融通する電力量の契約が少なかったとも言われている。この融通を調整するのが,J-Powerの大きな仕事である。
今回,首都圏の広範囲で部分的に大規模な停電が起きてしまったわけだが,首都圏の場合,それを取り囲むように複数の大手電力会社がある。2時間で復旧したとはいえ,もっと早く復旧できたのではないかと考えるのである。過去にも何度か苦い経験をしたはずのJ-Powerが,今回も対応できなかったのではないかと疑っている。
実は筆者は,就職活動の中で電源開発にもアプローチしていた。当時は,「日本中の電力供給の安定化を図るために民間の大手電力会社間の調整をする」という大きな役目を担っている,という点に魅力を感じたものである。しかし,どうも話が噛み合わないという印象だった。特殊法人という特殊な位置づけにあったことも関係しているかもしれない。
今回,設計どおりに安全装置が働いて,超大規模なブラックアウトを防いだ,という点は評価できるのだが,他の電力会社からの融通がもっとスムーズにできていれば,より短時間,30分以内程度で回復できたのではないかと思ったりする。次は首都圏直下型地震が予定されている。電力供給の融通はうまくできるのか,心配である。特に,一般家庭のラインは仕方がないとしても,交通インフラなどは電力をキープするような設計にすべきではないのだろうか。