JR貨物の車軸荷重の検査不正が明らかになったのも束の間,今度は都営地下鉄と東京メトロでも同様の検査不正が明らかになった。【追記】2024/9/20ニュースで,京王電鉄でも検査不正が明らかになった。
日本の自動車メーカー5社(トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキ)でも,性能試験不正がおこなわれていた。
かつてドイツのフォルクスワーゲンが,ディーゼルエンジン車で日本の排ガス規制を逃れるための不正を働いて問題になった。IHIや川崎重工業による舶用エンジン不正も発覚している。
いずれも,「検査」工程で数字を改ざんしている。規定の数値に達していないことがわかれば,通常はこれを生産工程,あるいは設計工程まで遡って改善する必要がある。当然,これによって製品は出荷できなくなり,納期に間に合わなくなる。売上が上がらなくなる上に,再設計,再生産のコストがかかる。製造業にとっては痛手となる。
性能に問題のない範囲なら,とにかく最初のロットはそのまま出荷してしまい,残りのロットで改善すればいい,という考え方が1つあったと思われる。要は,「製品のバラつきの範疇」に入れてしまってごまかしたのだと思われる。ただ,次のロットで本気で改善していれば,初期ロットを後ほどリコールするという手もないわけではない。
しかしどうも,性能の改善をおこなわず,初期ロットだけでなく,その後のロットについても引き続き数字の改ざんがおこなわれていたと思われるのである。これはもう,詐欺に等しい。
一発で性能が出ることはなかなかなく,このため設計,試作,製造,検査の各段階で綿密にフィードバックして微調整をおこない,最終検査に一発合格する,といったきめ細かい対応が日本メーカーの持ち味だった。不良率0を作り出すための,現場での工夫が「カイゼン」として世界のモノづくりの意識すら変えた。その日本が,「カイゼン」をおそらくしなくなり,「改ざん」に走っているとしたら,それはもう,筆者は日本企業とは認めたくない。
確かに,検査部門は昔から「コスト部門」と言われてきた。企業にとって利益を生まないからである。しかし,問題のない製品を世の中に送り出すことで,社会的信用を得て,日本メーカーが「世界の工場」「Japan as No.1」と呼ばれる国を作ってきたはずなのである。しかし,バブルが弾けて以降,経営が苦しくなった企業が,手を付けてはならない部門のコストカットを現場に要求し,これに「データ改ざん」という方法で答えて,そのウソがまかり通ってしまった。
本来なら,1社が摘発された時点で他社も「まさか自分のところでも不正を働いていないだろうな」とチェックして,正常な姿に戻しておくのが,「他人の振り見て,我が振り直せ」の在り方だと思うのだが,どうも「バレないようにうまくやれば,この手は使える」とばかりに,右へ倣えしてしまったのかもしれない。それだけ,現場の危機意識もなくなってしまったようである。
一方で経営側も,ただ数字だけ追っているから,現場での不正を見逃してしまったのではないだろうか。経営の数値化が,悪い方向に出てしまったのかもしれない。今の経営者,特に社長は,製造現場や営業の現場を直接見て,問題点がないかどうかの生の声を聴くようになったと聞いているが,ひょっとしたらそれが大病院の「院長回診」,あるいは「はだかの王様の行進」になっていただけなのではないのか。現場からの生の声が,ひょっとしたらトップに届かないような企業構造になってしまったのかもしれない。
モノづくりだけでなく,施設・設備の維持・メンテナンスをする分野でも,コストカットが行われてしまっている。高度成長期に作られた橋やトンネル,水道設備などが寿命を迎えて崩壊を始めている。気候変動で全国的に降水量が増え,地盤そのものももろくなり,それに引き連れられて道路や壁面そのものが崩壊する現場も増えている。
ほぼすべての国策企業が民営化し,それぞれが工夫をして収益を上げる方法やサービスを提供するようになったが,一方で合理化のために検査・メンテ部門のコストカットが行われたために,その影響が一気に明らかになってきているように思われる。
どんぐりの背比べのような自民党総裁候補と,それを単に取って代わろうとだけが目的の,やはりどんぐりな立憲民主党党首候補。結局,自分がトップになる,ということ以外の「日本をどうするか」という姿勢がまったく見えない。
アメリカは「自由主義」を掲げる代表だが,関税政策でこっそりと自国企業を保護している。輸入制限をし,アメリカ国内での生産しか許さない,アメリカ企業の部品利用率を維持させることで部品メーカーを保護などしている。明らかな保護社会主義である。
一方で日本は,まったくの無策である。台湾のTSMCの半導体工場を誘致したが,地元での雇用が増えるわけでもない。何をすれば国益になるのか,という点が誰も分かっていない。国策として,水素エネルギー産業と工場での農業・水産業生産産業を育成し,世界にもう一度貢献する,という明確な目標を掲げ,そこに安定した雇用を生み,また海外への技術輸出もする,というシナリオを描けなければ,日本に未来はないと思う。
現場での不正は明らかになったが,ここは「カイゼン」をリードしてきたトヨタ自動車の責任者として,豊田章夫氏にやはり日本のトップになってもらいたいのである(“経済新党”への期待--日本をもう一度奮い立たせるために,隠居している場合ではない - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2024/4/4)。水素エンジンも,燃料電池車も実用化してきたトヨタである。そこにプラスして,ユニークなEVを発表してきた元日本企業のシャープなども加えて,「地球救済党」として立ち上がってほしい。もはや今しか,立ち上がるタイミングは残っていないようにも思う。