健康保険証は、マイナンバーカードへ。篇(15秒) | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp) 。最近,やたらとトレインチャンネルでこのCMが流れると思ったら,2024/7/23の政府広報にあった。「今の健康保険証は今年12月2日に新規発行が終わります」と,非常に上から目線の文言だな,と思わせる。今の健康保険証の廃止は,2023/12/22に閣議決定したではないか,と鬼の首でも取ったかのような表現だと感じた(健康保険証廃止は2024年12月2日 政府決定、1年の経過措置 - 日本経済新聞 (nikkei.com)。
すでに,マイナンバーカード取得,および健康保険証とのリンク設定に対する特典付与は終わっている。あとは,受給資格証だけが発行される。その有効期間も2年と限られる。強制的な「はしご外し」が実施される。「アメとムチ」のムチを振り回す段階に入ったということである。
先のCMを見ると,最後に出てくる「デジタル庁」と「厚生労働省」の文字で,デジタル庁の方が大きく見える。両者の力関係を示しているのだろうか。
もっと訳がわからなくなっているのが,「デジタル認証アプリ」の提供開始である。「「デジタル認証アプリ」は、マイナンバーカードを使った認証や署名を、安全に・簡単にするための、デジタル庁が提供するアプリです。」とホームページには書かれている(デジタル認証アプリ | デジタル庁 ウェブサービス・アプリケーション (digital.go.jp))。
さらに,利用シーンとして,
ECサイトやネットバンキングログイン時の本人確認
公共施設やシェアリングサービスなどのオンライン予約時
ライブ会場等での酒類購入時の年齢確認
地域アプリ登録時のオンライン本人確認
予約システムを用いた面談や施設予約時のオンライン本人確認
などが挙げられている。つまり,これらの民間事業者が「マイナンバーカードを使った本人確認・認証や電子申請書類への署名機能」を行う際に,「このアプリを使ってマイナンバーカードを読み込ませ,その情報を取得できる」ようにするためのアプリである。
まず前提として「マイナンバーカードで本人確認をする」ことを民間事業者に求めていることが気になる。これまでの本人確認は,運転免許証や健康保険証,パスポートを提示し,係員が本人確認後,番号の記録などのアナログな方法で行われていた。この本人確認に法的な根拠はない。単純に,証明書の確認と記録をすることで,不正に対する抑止力になっていただけである。さまざまな偽装も発生していた。これをマイナンバーカードを利用することで,デジタル的におこなおうというものなのだが,民間事業者がこの仕組みを使おうとすると,システムにAPIを組み込む必要がある。手間と費用の発生が想定される。
2番目に,ECサイトなどの利用者は,本人確認を求められるとこの「デジタル認証アプリ」をスマホ側で立ち上げて認証するのだが,この際,スマホのNFC機能を使って「マイナンバーカード」をスマホに当てて認証する,という作業が発生する。アプリをダウンロードして使用できるようにする際,一度マイナンバーカードを読み込ませて登録認証を済ませる必要があるのだが,その後もサービスを利用するたびにマイナンバーカードを取り出してスマホに当てて認証する,という作業が必要になってくるのである。
たしかに,これまでのECサイトでは本人確認はなく,事前に確認できるとするとクレジットカード支払いぐらいしかなかった。コンビニ支払いや代引きでも代金の回収はできるが,届け先が本人であるかどうかは把握できない。マイナンバーカードで事前に本人確認できれば,違法クレジットカード使用などの被害は防ぐことができるかもしれない。
しかしそれにしても,認証のたびにマイナンバーカードをスマホで読み取らせるというやり方が実に面倒である。これまでも,確定申告をスマホでする際に,何度もマイナンバーカードを読み取らせる必要がある点に文句を言ってきた(マイナポータルへのアクセスに不満--毎回カードをPCカードリーダーやスマホで認識する必要があることが不便【追記-いずれもカードなしで使える方法にアップデート】 - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2024/2/12)。しかしこの「公的個人認証」に対しては「スマホ用電子証明書」を発行申請することで,スマホ単体で認証ができた。同じ仕組みが,民間事業者向けに提供されるのだろうか。一度取得した「スマホ用電子証明書」を民間事業者とのやり取りで流用できるのだろうか。流れを見てみるとこの仕組みは使えないようで,いちいちマイナンバーカードをスマホで読み取らせる必要があるように思われる。
通常,ECサイトで買い物をする際,筆者はお手軽なクレジットカード決済を使うことがほとんどで,特定サイトではすでに登録したクレジットカード情報を選択するだけで決済ができる点が便利だった。初めてのサイトだと,クレジットカードを財布から取り出して,番号,登録名,使用期限,セキュリティーコードを入力するのが面倒なのだが,今回のマイナンバーカード認証が加わると,マイナンバーカードを取り出しての読み取りと,クレジットカードを取り出しての情報入力,という2回のアナログ操作が必要になってくる。セキュリティー度は上がるが手間が増え,利用に対する障害になる。一般事業者が好んで使うとは思えない。
現状,民間組織に対してマイナンバーカード認証をある意味で強要しているのが,医療機関向けである。健康保険証の新規発行を2024/12/2で終了し,あとはマイナンバーカードを健康保険証と紐づけて使わせている。このために,数十万円もする読み取り端末を医療機関側で用意しなければならず,これが原因なのかどうかわからないが廃業する町医者も増えた。
もし,医療機関での保険証確認と今回の「マイナンバーカード認証」がリンクしているのなら,医療機関での専用端末での読み取りの代わりに,患者側がスマホでマイナンバーカードを読み取って認証すれば,専用端末なしで健康保険証の確認ができることになる。医療機関にとっては朗報となるはずだが,実際はどうなのだろうか。
それにしても,今までは医療機関の窓口で診察券と健康保険証をポンと渡すだけで済んでいたのが,診察券を渡して,マイナンバーカードを専用端末で読み込ませ,3回のボタン操作をする,という面倒な方法になってきている。唯一,進化したのが,専用端末での本人認証で「顔認証」という選択肢が加わったことで,なりすましを防げる効果が期待されたのだが,筆者は顔認証ではなく,「暗証番号」で本人認証をしている。マイナンバーカード上の写真(おそらくカード面の写真を読み取っているのではなく,リンクして登録されているデジタルデータを使っていると思われるが)と専用端末のカメラで読み取った顔を照合しているのだと思われるが,まだこの認証技術については疑問を持っているので,使っていない。指紋や指の静脈パターンなどの生体認証登録をした銀行のキャッシュカードの方が,よほど信頼できる。ちなみに,アメリカのグリーンカードでは,指紋認証と瞳の虹彩認証が使われている。顔認証の場合,化粧,変装,そして整形など,不安定要素が多く含まれるが,生体認証の場合はなりすましが基本的にできないからである。もっとも,指紋については画像での複製や,シリコーンスタンプによる複製も技術的に可能なので,筆者は指紋認証も使っていない。
これまでも,クレジットカードが多数発行され,利用時にそれを選んで取り出すのに時間がかかっていた。それでも,財布からクレジットカードとポイントカードを事前に出して用意しておけば,一度に認証ができた。
ところが,スマホの電子決済でポイント決済とポイント取得をしようとすると,レジに並ぶ前にスマホを開き,アプリを起動し,バーコードが読める画面を用意しなければならない上に,決済後にポイントアプリに切り替える作業をしなければならない。これをユーザー側が操作しなければならないので,レジの効率がこれまでより下がっている。なにしろ,レジ担当者は日々何十人ものレジ打ちをしているので,手順はわかっていて合理的だが,ユーザー側は週1回の買い物のために,スマホ操作をいろいろとする必要がある。
電子決済は,基本はPayPayにしているが,たとえば駅のキオスクで急いで買い物をしたい場合は,定期券を登録している交通系ICカードの方が明らかに便利である。Tポイントの店舗では,Tカードを読み取らせ,その後はTカードのクレジットカード決済を利用する。いずれも,カード1枚が取り出せれば精算はできる。
スマホ決済では,アプリを切り替えるなどの操作が必要なうえ,今度は個人認証のためにマイナンバーカードも取り出して認証し,さらに決済のためのクレジットカード情報の入力が必要になる場面も出てくる。結局,ユーザー側の操作に委ねることになり,自動精算端末を設置した方が店としては合理的という考えになるが,レジ処理能力は落ちるので端末数を増やさざるを得なくなる。スーパーの自動精算端末が10台も並んでいるのを見ると,このための投資がどれほど必要だったのだろうかと心配になる。
それでも,一般小売店はお客様サービス優先で自動精算端末への投資を英断したのだと思うが,医療機関でのマイナンバーカード端末導入については,医療機関そのものが患者に対して上から目線であり,サービスを提供するという意思が感じられない。専用端末の導入ができないから廃業するとは,本末転倒とも思えるのである。
いずれにしても,イメージ広告だけでは不満がますます膨らんでしまう。疑惑も深まってしまう。必要なのは「丁寧な説明」と,それを実際に案内するインタフェースである。上から目線ではだれでも反発してしまう。