ニュースWebサイトは便利だと思う。何しろ,これまでは「速報」はテレビの特権で,何かの発表があった場合に真っ先に知る方法はテレビの速報テロップか,ニュース番組が一次情報として伝えることが多かった。したがって,まず最新情報を知ろうと思ったら,テレビを点けっぱなしにするか,朝7時とか昼12時とかの定時ニュースを見ることだった。ニュース番組のトップには,重要ニュースが流れるからである。
学術分野であれば,書いた論文が有力な論文誌やジャーナルに掲載されて発表された時点がスタートになる。十分な査読を経て,研究内容が正しい,論文の結論が新しい,と評価され,文字として掲載して公表されることで,初めて研究成果が評価されたことになる。紙で印刷される,あるいは電子的にWebサイトで公開される,そのタイミングが新規情報である。
しかし,テレビ(あるいはラジオ)という報道メディアのニュース番組は,音声や画面で一瞬あるいは数分で報じられるだけで,そのまま消えて行ってしまう。見逃しをするともう情報は消え去ってしまう。そこで,次に速くて,しかも情報として固定されるのが新聞である。毎日朝一番で前日のニュースを整理して掲載する。朝5時には朝刊が配達されるので,場合によっては朝7時のテレビニュースを見るよりも早く情報を知ることができる。しかも,紙面の情報量に制限があるにせよ,テレビニュースよりもはるかに多くの情報を掲載でき,しかも深堀りをしたり,背景情報を加えたり,さらに記者の分析も掲載できる。情報の深みとして価値を持っていた。これも一次情報である。
週刊誌や月刊誌などの雑誌は,テレビや新聞が追わない独自の話題を「スクープ」として提供してきた。いわゆるスッパ抜きである。テレビや新聞が公共の情報を優先させるのに対し,雑誌では芸能人やスポーツマン,政治家や経営者など,有名人のスキャンダルやプライバシーに関する話題を得意としてきた。人間の好奇心に訴えた情報提供を心がけてきた。これも独自ネタという意味では一次情報である。特定の人に対しては重要な情報になる。
さて,インターネット時代になり,ニュースWebサイトがいわゆる「ポータルサイト」として,ブラウザを起動したときの最初のページとして表示されるようになった。WindowsパソコンならMSN(マイクロソフトニュース)がデフォルトで開く。その他,Yahooニュースやgoogleニュースなど,ニュースサイトをポータルサイトとしてトップサイトに設定することが多い。ポータルサイトには,ニュースのほか,天気や投資情報など,さまざまな情報に飛ぶことができるリンクが満載だからである。
筆者はテレビと新聞で育った世代なので,朝起きたらまず最新ニュースを知りたいと思う。特にテレビ世代なので,朝7時のNHKニュースは欠かせない。正直言って,「最も速くて信頼のおけるメディア」だと信じているからである。阪神淡路大震災が起きた時も,真っ先にテレビで情報を知った。阪神高速道路の高架部分が横倒しになっている場面や,神戸市西部で起きた大火事の様子など,文字では伝えられないリアリティーを伝える映像メディアの強さを感じた。この映像がきっかけで,次の行動に移る決断も速かった。
インターネットのWebサイトで見られるニュースは,場合によってはテレビ報道よりも速い。同時であっても,文字情報として読み返しが効くのはありがたい。しかも,アーカイブに移されても後日読み返すこともできる。キーワードで検索して,過去の情報を知ることもできる。テレビや新聞では情報を受け身で受け取るだけだが,インターネットでは情報を収集する,あるいは検索する,といった能動的な行動を取ることができる。
このキーワード検索機能には,「全文検索」と「キーワード検索」がある。ポータルサイトの運営者が,重要と思われるキーワードを手動で設定することで,より正確な情報を提供しようというサイトがある一方で,とにかく端から端まで検索して,検索ワードがある情報をすべて提供しようというサイトがある。前者はある意味で信頼が置けるし,後者は候補を漏れなく提示できるが,いわゆる「ゴミ」情報も多数含まれる。検索された情報の中から正しいものを選ぶ目はユーザー側に求められる。
最新の生成AIは,この情報検索をさらに進めて,勝手に情報をまとめてしまう力を持っている。長い大量の情報を要約して要点だけを提示したり,候補を箇条書きの形にまとめて見やすくできる。この情報収集とまとめはAI側の機能,つまりAIの都合によっていかようにも提示できる。しかも,もっともらしい表現で提示されるため,ユーザーが鵜呑みにしてしまう危険性もはらんでいる。
一方で,ニュースポータルサイトが「意図的」に情報操作をしている状況が過激になってきていると感じる。
1つは,情報の集め方である。テレビニュースでは「トップニュース」,新聞では「トップ記事」に何を持ってくるかはメディア側の意図による。タイトルも基本的に情報の内容を正しく伝える文言になっている。タイトルと詳細情報が同じレベルで見聞きできるからである。内容を読みながら,タイトルも目に入るので,内容にそぐわないタイトルが付いているとおかしな印象になる。より的確なタイトルを付けるという「整理部」という特別の部署があるぐらいである。
ところがニュースWebサイトのタイトルは,「意味不明」な「過激」なタイトルが付けられることが多い。何しろ,詳細情報はトップ画面から見ることができず,タイトル部分をクリックして次の画面に移る操作をユーザーがしない限り,中身を知ることができない。このために,クリックを誘導するような刺激的なタイトルが付けられることが多い。
その開いた先が,タイトルとはまったく異なるような商品販売案内や,さらに何十回もクリックしなければタイトルの情報にたどり着けないような作りになっていたり,トップページでいかにもな画像を表示しているのに内容ページには画像がなかったりと,実に腹立たしい意図的な誘導がされるようになってきた。
もう1つの問題は,ニュース記事と広告記事の境目が曖昧になってきていることである。新聞でも雑誌でも,広告を配置する位置はだいたい決まっている。位置によって値段が決められるからである。かつてのポータルサイトでも,たとえば縦に3分割して,中央欄はニュース記事,左欄はメニューと「バナー広告」,右欄はより大きい広告,とほぼ棲み分けられてきたが,現在のWebサイトではニュース記事も広告もほぼ同じ大きさで横並び,混在して表示される。かろうじて「PR」といった表示が小さく見えるぐらいである。新しいニュースかな,と思ってクリックしたら,いきなり宣伝記事だったりする。しかも,マウスカーソルを動かしただけで前面に広告枠が表示されるなどのテクニックも一般に使われるようになった。広告はサイトの収入として必要だと認識しつつ,ユーザーとしては邪魔に思うなど,逆効果でもあることを伝えたい。
さてさらに大きな問題点として取り上げたいのが,記事が「焼き直し」ばかりになっていることである。
その情報源は,有名人や評論家のブログやXなどの書き込みである。もともと評論家やコメンテーターは,一次情報を解釈してコメントを発信するだけで,ただの「感想文」に過ぎない。あったとしても「持論」を展開するためのネタにするだけである。要するに情報としては二次情報であり,ほとんど付加価値がない。それを,学歴であったり,専門の知識であったり,あるいは個人の経験に照らし合わせて,一次情報に対して批判をする。賛同するコメントはほとんどない。何しろ賛同すれば自分からの情報発信にならないからである。
その二次情報をさらにつまみ食いしてニュースサイトに上げているのが,現在のニュースポータルサイトである。つまり,ニュースサイトと言いながら,ニュースは一部しかなく,テレビのワイドショーのコメンテーターの一言や,評論家のブログなどの一部を引っ張り出して,「◯◯氏は◯◯に対して◯◯とコメントしている」という記事ばかり載せているのである。一次情報からはるかにかけ離れている「焼き直し記事」ばかりである。
こうなる原因の1つが,Webニュースを作る「在宅アルバイト」である。◯◯のテーマで1000文字の情報を作れ,といった指示で情報を書かせ,1本数十円の報酬でかき集め,そこから受けそうな情報をニュースサイトに流す。もともと在宅バイトなので,情報源は他人のWebsiteやブログのコメントなどである。おそらく「◯◯氏ウォッチャー」みたいな人が有名人のブログサイトを常時監視し,ネタを焼き直してはWebニュース運営者に提供するのだろう。ニュースサイト運営者側も,受け取った文字情報で内容を判断するので,ニュースサイトにアップする時はいつも同じ顔写真の画像が登場するだけになる。某元知事や某評論家の巨大な顔写真を連日見る羽目になり,ウンザリしてしまう。
評論家同士でも,相手のブログをウォッチしているのか,即座に反応のコメントをアップしたりしてしまう。それを面白がって記事にまとめる在宅ニュースウォッチャーたち。もはや,一次情報というオリジナリティーのある情報は,10%にも満たないのではないかと思われる。実際,一次情報にこだわった新聞は部数が激減し,さらに独自ネタを売り物にしてきた雑誌も壊滅的になっている。部数が減れば広告効果がなくなり,広告出稿も一気に減って経営難に陥るという悪循環でメディアが消えつつある。そしてテレビも二次情報だらけになり,芸人ばかりを登場させ,ワイドショーばかりになる。ドラマも真面目なものは減り,コミックの実写版やかつての裏ビデオのような内容のドラマばかりになってきている。信頼できると思っていたNHKさえ,おちゃらけた番組作りをするようになり,大河ドラマすら風格がなくなってしまった。
実際,日常で意外にも役立っているのが,検索で引っかかってきたYoutubeの動画だったりする。かつては,検索したWebサイトの解説文がメチャクチャで,要領を得ず,画像もいい加減だったが,Youtubeが一種の動画マニュアルになって,細かいポイントをアップで写したり,わかりにくい解説は文字テロップで説明したりと,ただのムービーよりもはるかに情報量が多い。しかも,提供しているのがその道のプロ,というかいわゆるオタクが多いため,まどろっこしい半面,注意点などを的確に示してくれたりする。「チャンネル登録をお願いします」といって登録するユーザーも多いようである。そこには価値のある一次情報が含まれていることも多いと感じる。ただし,10分を超える動画は,正直言って遠慮したいとも思うのである。
もう一度,真面目なニュースサイトが戻ってきてほしいと思う。