建設業界に若者が戻ってきた,という話がある。かつての「きつい,汚い,危険」の3Kではなく,「給料がいい,休暇が取れる,カッコイイ」の3Kだというのである。
設計はコンピュータ,作業は遠隔操作や自動化,測定はドローン利用など,もともと電子化への取り組みが盛んな業界において,働く環境のDX化が強力に推し進められている。現場の情報共有はタブレットで,また現場での熱中症対策のための健康モニタリングセンサーも身に着けて,センターで作業管理もされている。福利厚生はもともと充実しているので,若い人に選ばれている,というのである。
しかし,自動機械の利用は大規模プロジェクトのごく一部であり,ほとんどの現場では地道な作業が行われる。さらに,外国人労働者によって現場が動いている。
いわばゲームの延長線上でバーチャルな画面の中だけで仕事をしているようなもので,リアルな鉄やコンクリートなどに対する経験や勘,ノウハウといったちょっとした工夫や気づきが入らない。さらに外国人労働者に対する作業指導も,日本人相手と違って不十分になる危険性がある。
一時期,大工になる人が増え,専門の学校もできた。しかし,材料費の高騰,給与の高騰,経済の低迷などで,きちんとした建築ができる環境ではなくなっている。
一方で,戦後に建てられた大型施設が50年超えで寿命を迎え,建て替え計画が立てられたにも関わらず,建物を取り壊すための費用も膨れ上がり,建て替えが中止になっているケースがあちこちで起きている。有名どころでは東京の中野サンプラザの建て替え計画のとん挫がある。
今後数十年で,都内の高層ビルやタワーマンションなども寿命を迎えるだろう。それ以前の公営住宅や民間マンションも同様で,寿命を迎える。しかし,建て替えることができない。中国のように,新規工事の途中で放置されて廃墟となっている街があるが,日本では街中に廃墟ビルが残る構図になることが予想される。
新しい建物を設計して作るのは机上の理論では可能だし,ワクワクする仕事である。しかしその前に,地盤を知り,自然災害のリスクを考え,そして現存する建物をどう処分するのか,といったコンピュータでは処理できない問題について肌で理解できる若者が育つのだろうか,という懸念がある。
どの業界でも,バーチャルな仕事を少数の日本人がこなし,リアルな仕事は海外からの労働者頼みということになり,いずれあらゆる伝統が継承されなくなるような気がする。